刑執行

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この頃、毎日のように見る夢があった。 友達A(実在)と高層団地に住む友達B(夢の中の住人)宅へ初めて遊びに行く夢だ。 階段を使って最上階に住むB宅へ向かうのだが一階から二階に上がる際、踊り場を境に階段が途切れているのだ。 目線を少し上に向けると二階のフロアは見えていて、途切れている距離はジャンプをして行けないわけでもないが、登りの傾斜を考慮すると無理な感じだ。 Aは躊躇なく飛び、ギリギリのところで両手を引っ掛けてなんとか這い上がった。 俺よりもポテンシャルが低いAが行けたのだ。 俺にできないわけがない。 「先行ってんよ?」 Aはそう言い残し、行ってしまった。 一階から二階に登る階段の中間踊り場から先だ。 もし落ちたとしても足の裏がジーンとなる程度だろう。 それにAが行けたという事実が大きい。 しかし、中途半端な高さというのはより恐怖心を煽るものだ。 俺は二十代半ばで飛び降り自殺未遂をしたのだが、あん時は恐怖なんざ微塵も無かったもんな。 未遂に終わったその瞬間全身から汗が吹き出て暫くの間全身の震えと悪寒、動悸、過呼吸が止まらなかった。 あれから約二十年、酒が旨いのでもうそんな事ぁどうでもいい。 不幸自慢に聞こえちまったら皆さんに申し訳ねぇからな。 長く生きてりゃ闇の一つや二つ、あるもんだろ? やめだやめだ。 過去の話だし、夢のシチュエーションとは心理から何から何まで違いすぎるからな。 話を戻す。 俺は途切れた階段目の前にしてその足を踏み出せない。 不思議だ。 凄まじい恐怖だ。 しかし、B宅へ行く約束をしている。 「行かなきゃ…」 俺は勢いをつけてその足を踏み出した瞬間に、時間の流れが遅くなりそして足を踏み外してゆっくりゆっくり、頭から落下していく。 そこでいつも目が覚めるのだ。 さて、不幸自慢はこの辺にして時間と場所を話を例の公営研修施設に移そう。 皆さんが興味を持ち、読んでくださってんのは痛い四十代男性の夢日記じゃないからな。 「んぁあ!重い!暑い!たまらん!」 俺はボランティア用の部屋にバッグを投げ捨てた。 荷物を置いたら早速、飯盒炊さんの段取りだ。 子ども達も保護者もいないからつい荒っぽい言動になってしまった。 部屋を入ると二段ベッドが両脇に設置されていた。 間の通路は1mくらいで右側二段ベッドが計四列、左側二段ベッドが計三列ある。 左側二段ベッドの奥に簡素な手洗い場が設置されていて、更に奥には大きな窓がある。 部屋にトイレはない。 「彪流さん、ここに一人かぁ。広く使えていいね。」 加瀬涼子が荒ぶる俺の背中に声をかけてきた。 さすがに男女の部屋は別だ。 キャンプ場でも当たり前だが、男女は別のテントだ。 「いいもんかよ。こんなだだっ広い部屋に一人なんてちょっと怖いな。」 俺は早速空調の電源を入れた。 「怖いの?」 今度は加瀬京子が涼子の右肩からピョコっと顔を出して俺に聞いてきた。 もうこの双子ちゃん、仕草や行動が一々かわゆいのよ…。 もうなんつうか…一々…もう…小動物というかげっ歯目げっ歯類というか…こう…わかるかな…。 「怖いよ。俺は昔から一人の部屋なんて与えられてなかったからね。」 貴様らみたいな富裕層とは違ってこちとら団地住まいからの平屋借家住まいなんだよ。 見下してんじゃねぇゾ? 調子ん乗ってっと犯s… 「えーそうなの?じゃあいきなり一人の部屋なんて怖いよね。」 「京、暑いよぉ。離れて離れて。」 俺に話を振っておいてなにを姉妹でいちゃついてんだゴラ。 「そうだな。正直怖いよね。」 俺は飯盒炊さん用の長袖を取り出す為に、バッグを漁りながら普通に答えたよ。 本当の事だからな。 「え、じゃあさ、あたし達の部屋向かいだからさ。遊びに来なよ。消灯前なら怒られないし、子ども達と階も違うから大丈夫だよ。」 「そうそう、怖いのかわいそう。おいでおいで。」 うーん…思い切り見下されたような発言に聞こえなくもないんだけど… なんだろ…ん…なんだその… だいぶ年下の女の子にこんな発言をされるなんて… フム…悪くない。 「そっか。この階は保護者だけだしね。それに保護者の部屋は階段近くだからだいぶウチらの部屋から離れてるし。遊び行こうかな。」 「うんうん、来な来なぁ。祐実ちゃんと綾子ちゃんとも話してたの。彪流さん来てほしいねーって。」 涼子は自分の背中に張り付く京子を押し退けながら言った。 「ねー。いっぱいお話しようよー!時間もコレ見るとかなり余裕あるしさ。」 涼子に押し退けられてバランスを崩しながら、京子は言った。 「そっか、じゃ少し夜お邪魔するよ。さっ、行くよ。長袖、帽子、手袋、タオル。持った?火の粉が飛んで火傷するって教えてもらったでしょ?」 「うん!大丈夫!行こ行こ!」 「うん!大丈夫だよ!行こ!元気出していこうねー!」 俺は嬉しさのあまり、声が裏返っていたと思う。 どうだ!?高校のスクールカースト上位ども!!中学生とはいえ美少女四人から夜の座談会にお誘いされるなんて経験無ぇだろがぁ!! 当然だ!!貴様らが遊んでいる時に俺は研修を受けて勉強し!!ボランティア活動をしているのだからなぁ!! 悔しいかぁ!?スクールカースト上位ども!! …と思っていたあの頃の俺を誰か殺してくれ。
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