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キャンドルサービスは大成功だった。
保護者の男性陣は仕事やら地域行事やらでキャンドルサービス前に全員帰宅、なので俺が火の長をやることになった。
火の長は火の精を間近で見ることができる。
あの衣装を身に付けた四人娘を間近で見ることができるのはご褒美でしかない。
今回は屋内でのキャンドルサービスということで大きな蝋燭二十本近くを刺せる木製の燭台を中ホールの中心に置き、トーチではなくジョッキ型の燭台を持った火の精達が「渚のアデリーヌ」のリズムに乗って舞う。
なぜ、キャンプファイヤーにおける火の精のテーマソングが「Don't Cry for Me Argentina」でキャンドルサービスにおける火の精のテーマソングが「渚のアデリーヌ」なのかはよく分からん。
しっかし何度か四人娘の火の精を見てきたが、やっぱり美しい。
時代が時代ならTikTokとかで御バズりになられるほどの美しさだ。
ここまで美しいとエロスを感じないものだ。脳がバグるのだろう。
一定量のエロスを超えてしまうと、し◯けんレベルの人間でないとエロスに変換できずに「美」という認識しかできなくなるのだろう。
俺は火の長をしながらも火の精から目が離せないでいた。
今回も健全な男子の性癖をだいぶ歪めたんじゃないスかね。
キャンドルサービスを終えると、子ども達は涼しい食堂でおやつを取り、歯磨きからの自由時間からの就寝。
俺達ボランティアは子ども達とおやつを取り、急ぎ足で入浴、そして反省会と称した再おやつ大会。
保護者代表のおばさんがおやつとお茶の差し入れをしてくれたのだ。
俺はシレッと四人娘の部屋に乱入。
令和日本ならば処罰の対象だろうな、普通に。
俺は四人娘の部屋に入るなり保護者代表のおばさんからもらったおやつの袋と、冷え冷えで結露の汗をかいた缶お茶の袋を掲げて四人娘に見せた。
「あー彪流さん、お疲れ様。え〜?何それ。」
半袖短パンですっかりリラックスした中野祐実が反応する。
「会長さんから差し入れだよ。ここは飲食できないから食堂に行こうか。」
「食堂使っていいの?」
加瀬涼子が立ち上がりながら言った。
「別にいいみたい。使用後はテーブルをきちんと拭いて、照明をちゃんと落とせばいいよって。職員のおっさんは言ってたよ。」
そう俺が言うと四人娘はさっと立ち上がった。
食堂に到着すると俺は食堂の奥だけ照明をつけて、テーブルにおやつと缶お茶を置いた。
「何か悪いことしてるみたいね。」
中野祐実が悪戯な笑みを浮かべて、着席した。
「先にお茶とおやつしてていいぞ。俺はホントに悪いことしてくる。」
俺はそう言い残してその場を後にした。
消灯時間を三十分ほど過ぎている。
保護者達も早い奴はもう夢の中だろう。
威張って玄関先の灰皿で煙草が吸えるというわけだ。
俺は職員に声をかけた。
「少し、外の空気吸いたいんです。いいですか?」
「ん?あぁいいよ。駐車場から出ないでね。防犯上よくないからさ。戻ったらまた声をかけてね。」
「あぁ、分かりました。んじゃ。」
外の空気というか、毒されし白き煙を吸いたいのだがな。
昔のズブズブで口だけ言うだけ分煙制は良かったねぇ。
俺は玄関先の灰皿の前でマルボロに火を点けた。
「あぁ、うま。」
俺は星空に向かって煙を吐いた。
田舎の中の田舎、更にその山の奥の奥にある施設である。
夏のジメジメした空気の中でも星のまたたきがはっきり見えるのだ。
その星の神秘的なまたたきを猛毒ニコチン含有の煙で歪める。
なんともサディスティックな感覚に陥るものだ。
数時間ぶりのニコチンが俺に快楽を与えていく。
「思いを告げなきゃ…な。俺は社会に出るんだ。すぐに金をためて東京に出るんだ。稲城と一緒にな。」
稲城とはバンドのメンバー、ギタリストだ。
この稲城と俺がメインソングライターとしてバンドは動いていた。
稲城は就職はせずにバイトで食いつなぎながらバンドの運転資金とする予定らしい。
そしてデモ・テープを数本引っ提げて、東京に殴り込みに行くのが俺達の夢だった。
「そうすると、もうこのボランティア…応援にも行けなくなるだろうしな。この夏しかない。この夏しかチャンスは無いんだ。」
灰皿が設置されている場所から食堂の灯りが見える。
あの灯りの下に下田綾子がいるのだ。
俺は煙草を消して、再び施設の中に入った。
職員に戻ったことを告げて、食堂に行くと四人娘はおやつに舌鼓を打っていた。
「だいぶ食べちゃった。遅いよ、まったくもう。」
「はい、お茶どうぞ。」
「遅いよ、彪流さん。煙草臭っ!くっさ!」
「不良だ不良だぁ。早く食べなよ。」
次々と俺に話しかけてくれる四人娘。
誰がどのセリフかは読み解いてくれ。
楽しいお茶会は俺が煙草から戻って三十分ほどで終了した。
そして部屋へ戻るのだが…?
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