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「実際応援を禁止してるわけじゃねぇし…だからまぁ…頼まれりゃ応援に行こうとは思ってる。日にちが合えばってのと、後は就職先…勤務地次第ってとこだな。」
「そっかぁ…地元に就職とは限らないもんね。」
京子は口を尖らせて言った。
普段コロコロと毬が転がるような口調の京子は、気持ちがそのまま口調出る。
「どんどん応援頼んじゃお。嫌がらせしちゃおうよ。」
中野祐実が切り出す。
何が嫌がらせだよ…。
誰かから必要とされるなんて男女交際経験無しの当時の俺からしたらどんだけ嬉しいことか…。
中野祐実、お前には分からんだろう。
「嫌がらせもクソも、行けない時は行けないからな。頼むのは別にただだからなんぼでも頼んでいいよ。」
中野祐実の言葉、それは「なんでも先延ばしにするマン」の俺にとって甘えを生む言葉だった。
高校を卒業しても少なくとも連絡が途切れることは無いし、スケジュールが合えば応援と称して会いに行くことだってできる。
俺はなんだか中野祐実の言葉に妙な安心感を抱いた。
「彪流さん、辞めないでよ。」
加瀬涼子の声が聞こえた。
ふざけた口調ではない。
マジなヤツだ。
「辞めねぇよ。やっぱ俺、この活動好きだもん。それに…この活動をしてる奴ら皆んないい奴ばっかだ。こんないい奴らホントこの活動以外で見たこと無ぇよ。会員外になっちまうかもだけど、サポートはしていきたいな。」
「そっか、それならいいや。頼むよ、彪流さん。」
加瀬涼子はあっけらかんとした返事をした。
「軽いな。さて、俺は眠たくなってきた。そろそろ戻って寝るよ。」
事実さっきの中野祐実の言葉に安心して急に眠たくなってきたのだ。
連泊予定だし、眠れる時に眠っておかないと次の日地獄を見るのは経験から分かりきっている。
俺は上体を起こした。
一回体を伸ばしてふぅと大きく息を吐いて、二段ベッド上段からはしごを伝って降りていく。
降りていく途中で下段の下田綾子と目が合った。
下田綾子の両口角が僅かに上がる。
『なんでこんなかわいい奴が俺にこんな懐いてくれてるんだ…懐いているどころか…』
俺は心の中で呟いたが、最後まで言うことができなかった。
懐いているどころか…その先を言ってしまうと築き上げた何かが崩壊していきそうな気がしたのである。
俺は二段ベッドから降りると、扉へ向かった。
「早く寝よう。明日ラジオ体操6時半からだし。俺らは子ども達よりも保護者よりも早く行かないといけないからね。遅刻しないようにね。」
「はぁい、彪流さん、寂しいっつって眠れなかったりして。」
「ね、怖いとか言い出してまたこっち来そう。」
「アハハ!綾ちゃん布団入れたげれば!?」
「ちょ、何言ってるのよ!」
ふざけたガキどもだ。
返事したの中野祐実だけじゃねぇか。
でも…わ、悪くない…。
「さっさと寝なよ?怖かったら泣きついてくるかもな。そん時は頼むわ。んじゃ、おやすみ。」
俺は返事を待たずに女子の部屋から出た。
廊下を経て、向かいにある自分の部屋に入ると途端に胸が苦しくなった。
それも悪くない苦しさだ。
俺はもう我慢できない状態だった。
恥ずかしいだとか、後の事を考えたりだとかそんな事で思いを告げないというのは本当に好きではない、この時そう思ったものだ。
少しでも気持ちを弱めてしまえばポロリと口から全て出してしまいそうだ。
しかし、今どうこうするわけにはいかない。
俺は会長から彼女達を育て上げるように言われている。
会長は恐らくこの四人娘を自分の後釜、役員にしようと考えているのだろう。
それに彼女達は中学校二年生。
将来のことを考えれば今が大事な時期だってことくらい高校生の俺にだって分かる。
だから色に溺れている場合じゃない。
綺麗事ではなく、本当にこの時改めて決心したものだ。
きちんと彼女達を見守る。
それが今の俺の責任だと。
俺は無理矢理そう自分を納得させて眠ろうとした。
これほどまでに自分の胸の鼓動がうるさく感じた事は無い。
気が付くともう朝だった。
彼女達に指示した起床時間よりも十分早い。
眠れたのか眠れなかったのか分からないが、俺には責任がある。
俺は一人、ラジオ体操の準備に向かった。
「俺は…リーダーだ。」
俺は本気だった。
本気で抑え込もうとしていた。
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