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「じゃあね。彪流さん、綾ちゃん頼むよー。」
「んじゃ、先帰るからね。よろしく。」
「暑いね~。綾ちゃん、お先に。もう次の子ども会来るの?来るまでゆっくりしてなよ。」
俺は下田綾子と横に並んで、帰る子ども達を見送り、最後に加瀬姉妹と中野祐実を乗せた保護者代表のワゴン車の横で話をしていた。
「はいはい、分かった分かった。保護者の方に迷惑になるだろ?早く窓閉めな。」
「じゃあねー!」
加瀬涼子の声を最後に窓は閉められた。
そしてワゴン車は発進した。
次の子ども会が来るまで約一時間程度ある。
さっきまでやかましく騒いでいたガキンチョも、加瀬姉妹も中野祐実もいない。
そしてここはクソ田舎のそのまた山の奥。
一気に静寂に包まれる俺と下田綾子。
「とりあえず冷房効いてるロビーに行こうや。なんか飲み物、飲む?奢ったるよ?」
「…うん…じゃあ…いただきます。」
影が見えるような返事の仕方だ。
『お?やっぱ二人きり…はさすがの綾子も気まずいのか?いやいや、そんなわけ無いだろ。』
俺の後にしおらしくついてくる下田綾子はやはり心無しか元気が無い。
空調の効いたロビーにたどり着き、しばらくそのひんやりと気持ちいい空気に身を任せた。
「よし、バッチリ冷えたな。飲み物何がいい?買ってくるよ。」
「えぇ?じゃ、じゃあリンゴジュースを…」
「分かった分かった、んじゃ待ってて。」
な、何だ?何だ?この微妙な空気というかやけにしおらしい態度と、影のある話し方は。
連泊の派遣行事で二人きりは初めてだが、日帰りの派遣行事で二人きりなんて結構数をこなしてきた。
二人で普通に電車に乗って行ったりしてたわけだし…。
俺はアレコレと考えみたものの、「明らかな好意」というのは揺るぎない。
俺は甘いコーヒーと下田綾子のリンゴジュースを購入してロビーに戻った。
「はいよ、リンゴジュース。お待ちどお。」
俺は下田綾子にリンゴジュースを手渡した。
「ありがとう、いただきまぁす。」
下田綾子はニコリと笑ってリンゴジュースを受け取り、すぐに開けて飲み始めた。
その笑顔を見て安心した俺は下田綾子の隣に腰を降ろした。
「美味しい、ありがと、彪流さん。」
下田綾子は隣の俺に顔を向けて、顔を綻ばせた。
その顔は本当に綺麗だった。
まるで特殊なエフェクトがかけられたようにキラキラと輝いて見えた。
どうにもならないその美しさに、返事ができないでいると、下田綾子は首を小さく傾げた。
「彪流さん、ありがとね。やっぱり甘いもの食べたり飲んだりすると元気が出るね。急に加瀬ちゃんも祐実ちゃんもいなくなってさ、子ども達もいなくなってなんか結構寂しくなっちゃってたんだ。」
「そうか。寂しい、そりゃそうか。キャンプは何度とやってるけど、連泊は初めてだしなぁ…。連泊でメンバーが変わると独特の寂しさがあるんだよね。って言うのは事前に言っといた方が良かった?」
下田綾子は俺の問いかけに目を閉じながら首を横に振った。
「まぁ…少し元気が出たなら良かった。子ども達が来りゃあそんな事考えてもらんないから大丈夫だよ。」
「うん…それに、それにね?…。」
下田綾子は俺に顔を近付けてきた。
イヤイヤイヤイヤ待て待て、今の俺なら間違いなく…
あ、いや、やめとこう。
いないとは思うが女性の読者様をこれ以上失望の渦に巻き込むわけにはいかない。
いやぁ…でもコレ普通にチューする距離だったっスよ?マジで。
分からんけどな?
ドキドキしながら俺も下田綾子を見つめ返した。
「ど、どうしたの?」
「…彪流さんが一緒…だし…さ…。さ、寂しく…ない…し…。」
いや、これ、おま、その、あれ、てめ、こら、ぼけ、かす…
↑こん時俺の頭ん中こんな感じ。
いや、逆に!逆にな!?逆によ!?
こぉんなセリフ顔至近距離で言われてよ!?
あ!?想像してみ!?なぁ!!
正気保っていられるか!?なぁおい!!
こんなんお前普通にチューすんだろ!?
だけどな!?そんなもん非モテ陰キャ脳筋角刈りおじさんもどき高校生(童貞)にそんなもん分かりゃしねぇんだ!!
こん時の俺を、俺はホメてやりてぇよ!!
誇りに思うぜ!?こん時の俺をよぉ!!
さぁ…パニックを起こした俺はどういう行動に出るのだろうか!?
少し顔を動かせばリンゴジュースの甘い風味を残した下田綾子の唇に触れられるぅーう!
どうする!どうすんのよ!俺!!
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