とどきませんけど 何か?

5/9
前へ
/9ページ
次へ
 ……大塚って、そうだった、所属はお客様サービス部だった。年がら年中、何らかの苦情に対応しているわけで、つまりプロ。IT資産の活用サポートという技術系、つまり主に機器が相手の俺や田端とは違う。 「私なら、1時間おきに高田さんに経緯報告します。何も進捗はないとしてもそのたびに謝罪の意を示します。お怒りも『ありがたいご意見』として拝聴しますよ」  そうだよな。思えば会社に勤めるようになって、まあ理不尽なことが多くて、さらされまくっているうちに怒りを抑えがちになっていた。表面上、穏やかに落ち着いた対応を心掛けないと、怒りは怒りを呼ぶと自覚したから。が、今回のことに限っては、噛み殺す必要はなかったか。  安物でも根性曲がりでも、愛着のあるクラブだ。これからも上司とも客とも、……ひょっとして大塚と一緒にだって、使う機会は数限りなくある。  俺は大塚の勢いに背を押され、その場でまた電話をかけた。 「見つからないならそれと連絡いただきたいのですが」  でも俺って穏やかに落ち着いた大人の対応ができちゃうしな―― 「え? まだ見つからないんですか?」  またその返事かよ? しかも200%悪気のない、世界一無邪気な、限りなく爽やかなトーンで。  ――ぷすぷすぷす、ひゅるるるる……どかん。  ささやかながらも俺の中の導火線は確かに着火、爆発。 「あんたじゃ話にならない! 上の人、出して!」  声を荒らげ電話を切った後、自分の爆炎にドクドクしてきた。大塚が両手を組んで俺を見つめてくれているのが、心強かった。  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加