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で、その夜、そいつは上司の印が押された「レンタル代、新品購入代すべて当社が負担します」といった念書を持ってアパートまで来た。
「これにハンコをお願いします」
部屋に通そうとした俺を押しのけ、大塚が前に出た。一緒に怒っているうちに何か運命共同体みたいになって。で、すっかり打ち解けてしまい、二人で手づくり晩御飯、というシチュエーションが出来上がっていたのだ。
大塚は、そいつの頭から足先までじろりとにらんだ。
「まさか、手ぶらですか? 菓子折り一つ、なし?」
「……はあ」
大塚はさっさとハンコを押してそいつを玄関先で追い返した。
うん、俺も思わなくもなかった。別に菓子なんぞ欠片も要らんが、こいつらの辞書には「誠意」という文字はない、と再認識。
「高田さん。次の接待ゴルフ、来週ですよね?」
いや、大塚がそう言っちゃったのはハッタリでしょ?
「いや、来月までは――」
「来・週・で・す・よ・ね?」
うへへへい。違うと言えるか、この気迫。
「最高級の新品ゴルフクラブ買っちゃいましょうよ。今すぐ!」
あ、そういうこと? とにかくあっちに少しはカウンター入れてやりたい――俺の気持ちに寄り添いまくってくれているわけだ。
ゴルフ前まではおっとりしたイメージを持っていた。が、大塚は速攻の人だった。つまりもう靴に足を突っ込んで、ドアを開けかけていた。
こないだは印象と違ったことにびっくりして正直ビビったが、今となってはもう、意外な面を見る楽しさに取って代わっていた。
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