伊勢見“清掃”事務所

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「なんだよ。嫌なことでも書かれてたか」  ダストがケラケラ笑いながら言う。 「はい」  不機嫌な伊勢見の返事。 「本当の息子よりも養子の俺の方が可愛がられてるって?」 「そうです」 「じゃあ、本心はどうなんだよ。アンタはどう思ってるんだ。家系から簡単に抜けられるはずないだろ?」  話が長くなりそうだと思った伊勢見は椅子に腰掛け、少し黙るや口を開く。 「幼い頃から殺してたんですよ、人を。で、ある時怪我をして知覚を失いましてね。もちろん、怪我した情けなさからの家族からのストレスも含めてです。ですが、幼いのに大人を何人も相手してたので、家系としては優秀だったと思いますよ。ですが、弟の方が可愛かったのでしょ。純粋だから余計に」  マグカップに手を伸ばし、温くなった湯を飲む。 「あまりにも弟を可愛がり続け教育していたので、僕は嫉妬して高校ぐらいに家を出て独立。とはいえ、流石にそれにストレス溜まりますから……雇われて殺しは殺ってましたよ学生ながら。その時、僕の運命を変えた――」  入っていた温い湯を飲み干し、代わりに引き出しから新品の板チョコを取り出す。 「よく溶けねぇな、それ」 「さっき持ってきたので。食べかけは風呂上がりに食べました」 「あぁ、そうかい。で、それがお前の人生を変えたと」 「はい、とある女性を拷問して頭使ったので軽く疲れて無意識にチョコを食べたんですよ。そしたら、一時的に“味覚”が戻ったんです。感動しましたよ。砂を食べているような……全く味がしない。もしくは塩味や苦みが広がる。それなのにあの甘さは――悪魔ですよ」  伊勢見はフッと薄く笑い、チョコを引き出しに戻しては「外の空気吸ってきます。戻って来るまで電話番お願いしますね」と席を立つ。 「何処に行くんだよ」 「屋上のガーデンエリアです。まだ初夏前なのでイライラしている頭を今のうちにクールダウンしたいので……。何かあったら電話してください」
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