伊勢見“清掃”事務所

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 エレベーターで屋上に行き、花や緑が賑わうガーデンエリア。一部にはハーブや野菜もあり、適度に水を上げつつ簡単に手入れ。  週に数回、花屋兼毒物専門の契約社員が来てくれるのだが濡れた形跡もなかったため出来ることには手を伸ばす。 「今日も太陽が眩しいですね。喉乾いてませんか」  なんて人と話すように植物に語りかける。これが彼である。モノによく話しかけるのだ。殺し屋だから人目を避ける、距離を置くとかではなく一人の人間として存在している。家族からの期待や愛された弟と違って、何処か自身の生き方を探しているようにも思えた。 「殺すの好きだよね、とか聞かれますが好きそうでそうではないんです。ただ一時的な幸せな時間があれば良いんですよ。女性を拷問して彼女が食べたチョコを口にして……それがあまりにも美味しかったので探してるだけなんです。僕の味覚を取り戻してくれる“音楽(悲鳴)”を――」  大雑把に水をやっては太陽の光が水滴を照らす。それは宝石のように美しかったが、伊勢見の心は満たされない。  何かが足りない。  それは何か――。 「彼らには悪いですが一時的な捜索範囲広げるための人であり、いつかは手放すつもりです。殺しは知らぬ間に僕から離れてることでしょう。いつだってそう――僕は孤独だ」  ベンチに腰掛け、ため息をつきながら空を見る。二十階を超えるビルは日当たりが良く、風も心地良い。一人になるにはうってつけの場所ではあるが、ビル街のせいか活気がないのが欠点ではあるが車の音が微かに聞こえる。  その時、ふと何を思ったのか。腰を上げた。 「室内でも散歩しましょうか。一応管理者ですし点検程度はしないとですよね」
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