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伊勢見“清掃”事務所
夜が明け、伊勢見は我先にと所有者でもあるタワーマンションの一室“清掃事務所”に来ていた。誰もいない静かな空間に大きく息を吐きながら、トップという立場なのに掃除や訪問者に備え、湯を沸かす。
事務員はいない。作業員はダスト、ブレイク、ジャンクの三人のみ。ダストを除く二人は一般常識が少々欠けているため、三人が来る前に伊勢見がすぐ仕事をこなせるように支度。
なんていうのは綺麗事。本音で言えば綺麗好きで完璧主義者で散らかっているのが嫌いで仕方ない、それだけの話。
「そういえば、ダストがシェフを殺したんですっけ。数ヶ月前にも殺された気がするんですが……イタズラなのか、わざとなのか。雇うの大変なんですよね」
入口をちりとりで掃くや見慣れた靴が視界に入り顔を上げる。部下の中で一番出勤の早いダスト。文句を言うなら朝七時。
「申し訳ありません。終わってないのでお引き取りください」
完璧ではないと中に入れたくない伊勢見。タバコのラムネを咥え、清掃服で達悪そうな顔をするダスト。睨み合う二人だが伊勢見はニコッと笑いながらラムネをへし折り「準備できてないんですよ」と静寂な怒りをぶつける。
「ポスト入ってた。あと、新聞読んでないだろ。騒ぎ起こしてるつもりないんだけど世間は騒ぐ。煩いね、ホント」
手に持っていた郵便物とコンビニで買ったと思われる新聞。それらを近くに投げ捨て「飯食って出直す」と立ち去っていく。
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