挑戦者は何を想う

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挑戦者は何を想う

「あと一回。……あと一回やって無理だったら、諦める」 「……あっそ」  完全に泣きはらした目で、妹のもなかは言った。彼女の手元にはスマートフォン。両手でぎゅうううう、と壊れそうなほど握りしめているのが見える。指先に血が集まって色が変わっているあたりからも明白だ。  彼女がこのモードになった時、私はこれも姉のつとめと彼女を近くのファミレスに連れ出すことにしていた。彼女がまだ小学生だった時からのことだ。それで、小さなアイスクリームを一つ奢ってやるのである。それを食べて気持ちを切り替えろ、という意図だった。  実際これは効果があったようで、アイスクリームを食べ切る頃には彼女の涙もだいぶひっこんでいるし、ファミレスを出る時には笑顔が戻っていることも少なくない。今回もきっと、そうなるのだろう。  まあ“本命”だった以上、いつもより少し引きずるかもしれないが。 ――そろそろ、こいつも前に進む時が来てるのかねえ。  現在高校生の妹は、来年受験生になる。そうなれば、今のような挑戦は難しくなるだろう。進むべき進路を決めるための受験勉強もそうだし、進路に関して親と揉めるだろうことも目に見えているからだ。  もなかがずっと挑戦し続けているのは、小説の公募だった。彼女の夢は小説家なのである。ゆえに、小説に関して勉強できる専門学校に行きたいと常日頃からぼやいているわけだが――まあ、うちの親が簡単に賛成するはずもない。手に職がつく学校に行って欲しい両親からすれば、将来にどれほど役立つかもわからないし、卒業して安定した就職が望めるかもわからない学校へ行かせる気にはなれないのだろう。それなりに学費がかかる上、妹が親の金で行かせてもらうつもりでいるから尚更に。  だからできればその前に、もなかも答えを出さなければならないはずだ。  他の全てを捨ててでも夢を追い続けるのか、夢を諦めるのか、それとも。 「もなか、あんたさ」  今日、とある新人賞の結果があった。  夕方の五時。一次選考結果発表。もなかのハンドルネームがそこにはなかったから、今自分達はファミレスにいる。 「あんた、あと一回を、いつまで続ける気なの?」  厳しいのはわかっているけれど、言う他ない。  就職して事務員をやりながら、兼業作家として活動している先輩としては。
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