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昨日の封書を否定しながらも心のどこかで心が黒く染まるのを感じていた。もし、あの計画が上手くいけば将来私は人生をやり直せるかも知れないとぼんやりと頭に描いていた。
「あっ、もうこんな時間……夕飯の買い物に行かないと……」
美鈴は慌てて出掛ける。
人通りの少ない寂れた路地を急ぎ足で歩く。遅くなるとこの通りは暗くなり物陰も多くあまりいい気がしない。いくら年齢を重ねたといってもこの通りを歩くのは正直怖いと美鈴はいつも思っていた。あんなボロのアパートに住ませるからこんなことになるのよといつも一人愚痴を溢す美鈴。あと少し歩けば明るい通りに出られるとさらに歩みを早める。
「あの……」
ドキッとする美鈴。後ろからふいに声を掛けられた。後ろからつけられている雰囲気もなかったし、通り過ぎる時も見かけなかった。隠れて待ち伏せされていたのかと一瞬立ち止まる。美鈴は怖くなり振り向かず歩き出そうとする。
「美鈴さんですよね?」
さらに名前まで呼ばれると心臓の鼓動が早くなる。おそるおそる振り替える美鈴。そこにはスタイリッシュにスーツを着こなした顔立ちの整った男性が微笑みながら立っていた。
「あの、どちら様ですか?」
声が上ずり美鈴。
「すみません。こんなところで声を掛けて。びっくりされましたよね? あまり人に見られたくなかったものですから」
「どういうことですか?」
男は笑みを浮かべたまま美鈴の耳元まで近寄る。一瞬たじろぐ美鈴だが男の一言で目を見開いた。
「あの封書……ご覧になられました? どうです? あの計画、何か想像されましたか?」
まるで見抜かれたような目で美鈴はその場から動けなくなった。
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