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──二年前──
お昼時、美鈴は一人で家事を終え椅子に座りコーヒーを飲んでいた。つまらない人生を送っているなと思った。夫である耕三は浮気三昧に霹靂していた。先日、浮気がばれた耕三は日曜日は私のために過ごすと言い出した。何を今更と思ったが本人が言い出したことなのでそのまま受け入れた。しかし二人の関係は完全に冷えきっていた。このまま浮気を理由に慰謝料を取ってやれとも思うが本人がお金がないことを理由に支払い続けるかどうかも疑問だ。
私はなぜこんな男と暮らしているのだろうと今更ながらに思う。思えば略奪婚なのだからこの男が同じことを繰り返すことなど考えれば分かるものなのにとコーヒーを飲みながらふっとため息を吐いた。
さて買い物にでも行こうかと美鈴は椅子から立ち上がると呼び鈴が鳴った。この時間に呼び鈴を押すのは宅配かセールスだろうと思いながら気だるくドアを開けた。
「申し訳ありません。少々お話を聞いて頂きたくて……」
「なんでしょう?」
美鈴と同じ年頃か、四十代と思われるスーツを嫌みなく着こなした女性が立っていた。セールスならば軽く断りを入れようと思ったがかまわず話かけてくる。
「実は私、さざなみ生命の山中益美と申します。今回この辺りの地区にお住まいの方々に知って頂こうとお伺いさせて頂きました」
山中益美と名乗った女性は名刺を差し出しにこやかに笑っている。
「今は考えていませんが……」
早めに断ろうと美鈴は考えた。
「もちろん今は必要ありませんが、今後必要になると思いますよ」
そう言い残すとパンフレットを置いてあっけなく山中洋子は美鈴の元を後にした。
「今後ねぇ……」
美鈴は受け取ったパンフレットをテーブルに投げ置き、買い物に出掛けた。
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