第一章 勇次と瞳

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「昨日はありがとうございました」  女は次の日も同じ時間帯に現れた。深夜のコンビニ。客が途切れる時間。 「いえ、とんでもない。いつでも困ったことがあれば呼んでくださいね」 「ありがとうございます。でもコンビニで困ることなんてそんなにないと思いますけど」  女は微笑んだ。 「そうですね」  勇次は頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。昨日会った時から勇次の頭の中から彼女のことが離れなかった。さえない勇次にとっては不思議な感覚だった。  女は会釈をしてそのまま店内を回っていた。昨日と同じ飲み物に食べ物をレジに持ってきた。 「これをお願いします」  慌てるように商品のバーコードをスキャンした。金額を提示しレジの自動清算機にお金を入れる女。 「レジも昔に比べて寂しくなりましたね。全部自動……昔はお金の受け渡しにちょっと触れる度にドキッとしたこともあったのにね……もちろん嫌な店員の時は今みたいなシステムが好ましいけど……」 「えっ?」  どういう意味だと頭が回らずに会計を済ませる女を勇次は見ていた。  商品をエコバックに詰める女。 「仕事がこの時間に終わるからやっぱりダメね。料理なんてさぼっちゃって」 「そうなんですか? 大変ですね」 「でもやっぱり近くにコンビニがあると助かります。まだ明るくなるまで何時間かあるけど頑張ってくださいね……えっと……羽山さん」  女は勇次のネームプレートを覗きこんで名字で呼んでそのまま振り向きもせずお店を出ていった。  突然名前を呼ばれた勇次はありがとうございましたの言葉も忘れ出ていく女の後ろ姿を呆然と見送ることしか出来なかった。  
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