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第三章
事件を起こした後、現行犯で逮捕された勇次は取調室にいた。勇次は殺害を起こしたことに何の躊躇いもなかったが気がかりなことは瞳がとうなったかのみだった。あくまでもこれは個人的な恨みであって瞳は関係ないと思っていた。警察に追求されても瞳から依頼された訳でもなくただ幼い時からの怨恨であり、たまたま瞳があの男に付きまとわれていただけの話だったのだ。勇次は瞳との関係を正直に話したが瞳はこの殺人に関して全く関与はなく、ただ一人の犯行とだけ告げた。しかし、警察は瞳との関係はもちろん聞いてきたが、もう一点気がかりなことを聞いてきた。勇次の前に一枚の写真を差し出した。
「君はこの女性を知っているかい?」
「いえ、ありません。こちらは誰ですか?」
勇次は誰なのか分からなかった。
──なぜ見ず知らずの女性の写真を提示してきたのか?──
「本当に?」
「はい。知りません。こちらの写真は誰ですか?」
警察は勇次の顔を覗きこむ。まるで微かな動揺でも逃さないと思わせるような目付きだが勇次は反応することがなかった。
「もう一度聞くが本当に知らないんだな?」
「ありません。ですかはこの女性は誰ですか?」
分からないもののために動揺することもない。
「誰かに殺害を依頼されたなどはないのか?」
「ありませんよ。瞳さんに付きまとっていた男がたまたま長年恨んでいた男だっただけです。ストーカーしていた男があの男だと思いもしませんでしたけどね。母や俺を不幸にして瞳さんまで不幸にしようとしている。そんな男を許せなかっただけです」
瞳から殺害依頼を受けた訳ではないし、まして他の誰からか依頼を受けた訳でもない。母さんを苦しめた男への復讐、瞳さんを恐怖から守ったことへの安堵感。
──俺は嘘も何もついていない──
ただひとつ隠していたのはあの封書の件だけは黙っていた。
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