第三章

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 部屋。そこは朗かに異臭を放っている。散らかり放題の部屋。もともと雑然としていた部屋だったがここ数日でさらに荒れていた。そこに一人無表情の女がベッドに座っている。スマホを眺める。ある男に対する発信履歴で埋め尽くされている。それでも女はタップし自分の耳にスマホをあてる。そして繰り返される声……。 『おかけになった番号は現在使われて……』  女はスマホを耳から離し力なく手放した。スマホから微かに聞こえる。『番号をお確かめになって……』 「何度も確認したわよ」  女は荒れた部屋で一人叫んだ。 「どうして……どうして……」  ふらふらと立ち上がり彼のために買った服を見つめる。 「こんなにあなたのために買ったのに……」  表情が一変して怒りの形相になりすべてを破り捨てていく。 「あなたのために……あなたのために……あなたと幸せになるために……」  無惨に破り捨てられていく服。そして怒りの表情から涙が溢れ虚しさに包まれる。  スマホが鳴る。 「純から?」  慌てて置き去りにしたスマホめがけ駆け寄る。ディスプレイを覗くとそれは店の番号だった。力を落とす女。期待を裏切るスマホに腹立たしさを感じ出る。 「瞳ちゃ~ん。どうしたの? 無断欠勤してさぁ~。困るんだけどさぁ……ちゃんと働いてもらわないと……それにどうしてもって言われて前借りもさせてんだからさぁ……」 「うるさいっっ……」  女は荒れ狂ったように通話を切りスマホを投げつけた。
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