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日曜日当日、勇次は不安な気持ちを抱えながらも待ち合わせ場所に赴いた。駅に着くと雑踏の中、一際目立つ女性がいた。水色の爽やかなワンピースに髪はアップにして普段見ることのないうなじを露にしていた。その姿を見ただけでも勇次はどぎまぎとしてしまう。瞳と目が合った。瞳は頬を赤らめた。
「あっ、勇次さん」
「お待たせしました」
瞳の格好に比べなんとやぼったい姿なんだと勇次は恥じた。黒のティシャツにジーンズ。それに履き古したスニーカー。瞳の隣を歩くには釣り合いが取れていないと思った。それでも瞳は優しく微笑む。
「良かった。来てくれて……コウ君の話が合ったから来てくれないんしゃないかと思ったから」
そう言うと瞳は人目も憚らず勇次の手を握ってきた。
「えっ?」
瞳の積極的な行動に一瞬、勇次は怯んだ。最初の印象からだんだんと変わって来る。しかし、それは瞳の行動に自分自身が惹かれていることに気づく。
「ねぇ、ご飯は食べた?」
「いや、まだです」
「じゃあ、食事に行きましょう……美味しいお店知ってるから」
瞳は勇次の腕に自分の腕を絡めお店の方に歩き出した。勇次は瞳の歩調に合わせるように歩き始めた。回りを警戒する勇次。
「大丈夫よ。コウ君はいないから」
まるで周りが見えているような口調の瞳。そして勇次の心を鷲掴みにするような笑顔を見せた。これから何が起きるか分からないが勇次は既に瞳に惚れていた。
夕日は沈みかけ周辺の街灯も明るく光った。その光は瞳を妖艶に照らし出していた。
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