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第一章 勇次と瞳
羽山勇次は母親と二人で慎ましく生活をしている。父親は勇次が産まれて直ぐ、母加寿子と離婚し、音信不通となっている。原因は父親の浮気だが暴力の絶えない父親だったという。その間、加寿子は勇次のために身を粉にして働いた。勇次は今年十九歳になり高校を卒業後、すぐに職に就き家計を支えていた。母の加寿子に恩を返したい一心だった。若い頃をほぼ勇次を育てるために費やし、すべてを我慢した加寿子になんとか少しでも楽をしてもらいたいと考えていた。
「母さん、少し休んだらどうだい? その分俺が働くからさ」
「ありがとね勇次。でも母さん、ずっと働いて来ただろ。だからなんだか休むのが怖くなっちゃって。でも無理はしないから安心していいから。本当にいい子に育ってくれたね。こんなダメな母親なのに……」
「そんなことないさ。母さんは一人で俺を育ててくれたんだから。ちゃんと恩返しするよ。これ今月分の給料。少ないけどこれは母さんのためのお金だからね」
「そんな気持ちだけで十分だよ。それは勇次が一生懸命働いたお金なんだから」
加寿子は受け取らずにいたが勇次はそんな母親だから受け取って欲しいと無理矢理その給与を握らせた。
「ありがとう。勇次……」
加寿子は年を取る度に別れた夫に似てくる勇次を見つめていた。
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