オレンジのガーベラ

1/9
前へ
/9ページ
次へ
 薄明光線が高層ビルのガラス窓に反射した。その鋭い光に私は目を細める。  あと半日だ、頑張ろう。  見惚れてしまうような景色に背を向け、赤いバンダナで弁当箱を包んだ。今日は9月16日、3連休前の金曜日。  エレベーターホールに着くと、ちょうど入れ違いで乗ることができた。私は、15階にあるオフィスへ戻るためのボタンを押す。  私の職業はITエンジニアだ。残念ながら人気ゲームを作製するプログラマーではないし、最先端の技術開発に携わるAIエンジニアでもない、しがない末端のエンジニア。  私は高卒で、どこで働いても長続きしなかった。人間関係がうまくいかず、その度に職場を変えていたのだ。  今の会社は、運よく社長や周りの人たちに恵まれ、ようやく落ち着いたところである。  スマートフォンの通知音が鳴る。「今日の献立もAIにお任せ!」と献立アプリのバナーが表示された。    近年、人工知能の存在がより身近になっている。人工知能の研究と開発は1950年頃から始まったとされ、インターネットの開発より前から、人工知能の基礎となる考え方が生まれていたのだから驚きだ。  恥ずかしながらこれを知ったのは、つい最近の出来事。息子の蒼登(あおと)が、私に教えてくれたのだ。 「お母さん。明日、応援してて!絶対に優勝してみせるから!」  学校へ行く朝、今まで見せたことない真剣な表情をしていた。 「分かってる!いつだってアンタのことは応援してるんだから」  うん、と頷いて彼は駆け出した。  明日は、全国の高校生以下が参加できるクイズ大会の本選日だ。まさか、蒼登がクイズ大会に出たいと言い出すなんて、頭の片隅にもなかった。もちろん、私は大いに喜んでいる。私と蒼登を変えてくれたのは、クイズなのだから。  私はパソコンのスペースキーを押す。そのロック画面にも、美しい虹がかかっていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加