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◇
「学校行きなくない」
中学2年生。夏休みあけの登校初日、蒼登がパジャマのまま言った。
「どうして?イジメられているの?」
私は弁当の準備をしていた手を止めて訊く。
「うん…」
無理はしてほしくない。しかし、引きこもりがちになるのは困る。理由を聞くが、曖昧な答えが返ってくるだけだ。学校へ相談しても、きっと解決しないだろう。
「どうしても?」
「どうしても…じゃない…」
「だったら」
「もういいよ!」
バタン、と蒼登は勢いよくリビングのドアを閉めた。
思春期真っただ中の、不安定な時期。私は大きくため息をつき、ダイニングテーブルに両手をついた。
部活はバスケットボールをやっていたが、1年も経たずに辞めてしまった。仲のいい友達が誘ってくれたと笑顔で言っていたのに。練習が相当厳しかったのか部員同士で問題が起こったのか。未だに分かっていない。
スポーツがダメでも学業は中の上レベルだから、順調に進めばいい大学に入って、いい人生を歩めるはず。蒼登には、私のようになってほしくない。
夫は出版社に勤めているため、夜遅くに帰ってくることもしばしば。部活を辞めたことを相談しても「やりたいことじゃなかったんだろ」と返して、早々にビールを飲み取り合ってくれない。
社会に出れば、やりたくないことをやらなければならない時もある。が、私自身偉そうに言えたものではない。だから夫からビシッと伝えてほしかった。
蒼登のやりたいことって、何だろう。
私は作りかけの弁当と朝ご飯にラップをかけ、冷蔵庫に入れる。
結局、その日は欠席することとなり、蒼登は部屋にこもってしまった。
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