オレンジのガーベラ

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 あれから蒼登は不登校気味になってしまった。というのも、なぜか水曜日は欠かさず登校するから、完全な不登校ではないのだ。  調子が良ければ木曜日、金曜日と続けて登校する。月曜日、火曜日は…ほとんど行けていない。私はそれでもいいと思った。彼なりに精一杯の努力をしているのだから。 「ご飯はいらないの?」 「んー」 「弁当持った?」 「んー」 「気を付けて行ってよ」 「んー」  親子の会話は相変わらず。ちょっと前までは、お母さん、お母さんって呼んでくれたのに。  ソファーに置いてあるバッグから、スマートフォンを取り出す。電車の遅延情報を確認し出勤する準備をしていると、テレビの上のコルクボードに『青』と題された蒼登の水彩画が目に入った。  「家族で海に行ったとき、キレイだったから描いてみたんだ」、蒼登が小学4年生の時私に見せてくれた絵だ。波打ち際と日の出の風景画。蒼登の繊細な内面が、筆のタッチに表れている。    「どうして題名を『青』にしたの?」と訊くと、「僕の名前にも"あお"が入っているから」と照れ臭そうに教えてくれた。  そして『青』は、全国小学生水彩画コンクールで見事入選を果たした。この絵を見た瞬間から、この子には才能があると確信していた。だから、蒼登が「将来は画家になりたい」と言ってくれた時は、とても嬉しかった。  しかしその後、なぜか絵を描くことから離れていき、大量のスケッチブックは無地のまま埃をかぶってしまった。  中学を卒業後、高校は私立へ進学した。学力が足りないため仕方なく、ではない。蒼登がどうしても行きたい、と希望したからだ。  私は彼を信じている。やりたいことが見つかったから、その学校を選んだのだと。
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