差し込む光

2/2
前へ
/51ページ
次へ
 ハク達が寝泊まりしている本部近くの 小高い場所に立つ一人の男性。    ハクはその男性に後ろから声をかけた。  「怪我の具合はどう?」  彼女の声に振り向いた男性は少し驚いた様子で、  「その言語は……」と聞き返した。  「これは、私の父が生まれた 『東洋の島国』の言葉、 あなた、この言葉がわかるみたいね?」  「はい……あなたの言っている言葉の意味 わかります」  「あなたは、日本人なの?」ハクが尋ねると、  「わかりません……俺、記憶を無くしてて」  すまなさそうに呟く男性に、  「大丈夫よ。そのうち思い出すから…… それまでここで生活をしてるといいわ」  「ありがとうございます。あなたの名前は?」  「私の名前は……ハク。父の生まれた国では『白』、 『無垢』って意味なんだそうよ」  「ハク……」  「あなたは……そうね、ジンでどうかしら?」  「ジン……」  「そう……ジン、和名は『仁』いやかしら?」  「い、いや……いいと思います。  ジン、俺の名前」  男性は嬉しそうに呟いた。  それからは、ことある事に二人で話す時間が 増えていったハクとジン……。  いつしか、互いに心の内を打ち明ける間柄に なっていった。  「ハク、俺を助けてくれてありがとう」  ハクを見つめるジンの瞳の輝きに彼女は 数年ぶりに胸の奥が熱くなるのを感じた。  小高い場所に吹き抜ける風を頬に受けて  並んで立つハクとジン……。    「ハク……君の瞳はとても綺麗だね。 七色に光って……まるで地球みたいだ」  「ありがとう……  私の瞳は『アース・アイ』って呼ばれて 特殊な色をしているの」  「だからハク、君は地球全体を光で照らす  『無垢で綺麗な心の持ち主』なんだ……  俺はそう思うよ」    ジンが呟いた言葉に思わずハッとしたハク。  それは、自らの手で殺した最愛の恋人 ルイが彼女にかけた言葉だった。  あの日以来、心を閉ざしていた暗殺集団のボス、 Queenことハクの心に少しだけ光が差し込んだ 瞬間だった……。    「ハクどうしたの?」  ジンが彼女の顔を覗き込んだ。  「ううん、何でもない。  ジン、そろそろ戻ろうか」  互いに微笑み合うと二人は来た道を並んで歩いて行った。  ~赤と黒と無垢な君 完~          
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加