誕生

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誕生

 「俺のまれた国は東洋の島国で、 大昔『日出国』って呼ばれていた」  「『日出国』?」  「ああ、『陽が昇る国』という意味だ」  「行ってみたいな……あなたが生まれた国に」  「そうだな……  いつか、生まれて来る子供と一緒に行こう」  男は、肩にもたれかかって座る妻の 腹部を撫でながら呟いた。  荒野の大地に辿り着いた男は、 そこで出会った女と恋に落ちた。  愛し合った二人の結晶が今……  この世に生を受けようとしていた。  おぎゃぁ、おぎゃぁ……。  夜明け前の紫色の空に高らかと響き渡る 元気な鳴き声に……  ゲルの中で待機していた男は、 慌てて外に飛び出した。  「生まれた……んだ。俺たちの子供が」  喜びの笑みを浮かべた男は、 額に汗を滲ませ、まだ呼吸が整っていない 妻のもとに走り寄った。  妻の傍らに眠る小さな女の赤ん坊を 抱きかかえた男は嬉しそうに妻の顔を 見つめ、  「エヴァ……ありがとう」と呟いた。  「リュウ……」妻は息を整えながら優しく 微笑んだ。  しばらくして、赤ん坊を抱き夫婦は ゲルの外に出ると、東の空から昇る朝陽に うたれながら、太陽に向かって赤ん坊を 高々と空に掲げた。  「神の御加護が永遠に我が娘にあらんことを」  太陽の光に照らされた赤ん坊は、  『ハク』と名図けられた。  「『ハク』? どういう意味なの?」 エヴァがリュウに尋ねた。  机に置いてあったペンと紙を手に取った リュウは、スラスラと文字を書き始めた。  「『ハク』とは、俺が生まれた国では 『白』と書くんだ。意味は、『純粋』で 『無垢』と言う意味だ。  この子には、純粋で汚れを知らない 人生を歩んでほしいという願いを込めて 名付けた」  「『純粋無垢』という意味で『ハク』  いい名前……」エヴァが嬉しそうに 腕の中でブランケットに包まれたハクを見つめた。  「King……そろそろ時間だ」  ゲルの中に武装した男が入って来た。  「リュウ……」  不安そうな顔をするエヴァに、 リュウは優しく微笑むと、  「エヴァ……心配するなすぐに帰るよ」  と告げると、彼女の唇に自分の唇を 軽く重ねた。    ブォオン……ブォオン……。  ゲルの外から聞こえて来るエンジン音と ともに隊列を組んだジープが走り出した。       
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