闇夜の襲撃と突然の別れ

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 「ハク……、ハク……」  彼女を呼ぶ声で目を覚ましたハクは 目を擦りながら起き上がった。  ゲルと天井の天窓から差し込む月の 光りで見えたのは、昼間見た鋭い顔つきの父親と 真剣な表情の母親の顔だった。  ハクは子供心に『危険が迫っている』ことを すぐに認識した。  「ハク、落ち着いてよく聞きなさい。 夜の闇に紛れて、この村を襲いに来た人が 外に沢山いる」  「村の入り口にいる見張り番の人達は?」  ハクが尋ねると、  「全員殺されたみたい……」  電気が消えたままの暗闇の中で囁くエヴァ。  カチャカチャカチャ……。  息を潜め、ベッドの裏から自動小銃や小型銃を 取り出したリュウがエヴァに目配せをする。  エヴァはハクの両肩を掴むと、  「いい? 今から爆発音が合図で 外で銃撃戦が始まる。私達はその混乱に乗じて 裏から脱出する。どんなことがあっても、 足を止めてはだめ。ハク、約束できる?」  エヴァの言葉に静かに頷くハク。  「偉い子……どうか、我々に神のご加護を」  エヴァはハクの腰ベルトにリュウから貰った サバイバルナイフケースを装着させた。  「エヴァ、準備はいいか?」リュウが呟いた。  「ええ……」  リュウが自動小銃を構えた。  ドドドーン……。バババババ。  ドカッ……ン。ババババ。  外で激しい爆発音とともに、 銃声が鳴り響き始めた。  ハクを連れたリュウとエヴァが、 裏口から外に出ると、停めてあったジープの 陰に身を潜めた。  表では、激しい銃撃戦とともに、 逃げ惑う人々の悲鳴が辺り一帯に響き渡る。   その時だった……。  「King……Kingを探せ……」  父親の名を叫ぶ声が聞こえてきた。  ドドドド……。  ドドドド……。  鳴り響く銃声。  パキュン……  身体をかすめた銃弾に思わず身体を後ろに のけぞらせたハクはそのまま地面に尻もちを ついた。  ジープに被弾したことを確認したリュウは 自動小銃の引き金を引いた。  ドドドド……。ドドドド。  その場で銃撃戦が始まった。  「いたぞ。Kingだ」敵がそう叫んだ。  「エヴァ、ハクと一緒にジープに 飛び乗れ……この場から離脱するぞ」   応戦しながらリュウが叫んだ。  頷いたエヴァはハクの手をしっかりと 握りしめた。  「3、2、1、GO」  リュウの合図ともにジープに飛び乗った エヴァとハク……。  エンジンをかけ、マフラーを吹かし、  「リュウ」エヴァが叫ぶと、銃を発射しながら リュウがジープに飛び乗った。  ブォォォォン。ブォォン……。  銃声の中を走り抜けるエヴァが運転する ジープ。  運転席と後部座席の間に身をかかめるハク。 窓ガラスには、血のりがついておりその隙間から 銃で撃たれ倒れる人や、動けなくなった人が 見えた。  ドッカァァン……。  爆音とともにハクの身体は一回転し、 そのままジープの外に投げ出された。  ドドドド。ドドドド。  横転したジープの陰で応戦するリュウ。  ハクを抱きしめるエヴァ。  ブォォォォン。ブォォン……。  味方と思われるジープが数台三人の方向へ 向かって走って来るのが見えた。  「King、こちらに……」叫び声が聞こえた。  「エヴァ、ハク乗れ……」  ジープに乗り込んだリュウが 二人をジープに乗せうようと手を差し出した。  その時だった……。  コロン、コロン……と丸いものがジープの足元に 転がってきた。    「手榴弾だ」リュウが叫んだ。  エヴァがハクを抱え上げると、そのままジープの 中に彼女の身体を投げ入れた。  「エヴァ、乗れ」リュウが叫んだ。  首を振ったエヴァは、  「リュウ、愛してる。ハクをお願い」  「ジープを出して、早く」  エヴァの声と同時にジープが走り出した。    ブォオン……。ブォオン……。  「エヴァ、エヴァ……」  大声で叫びジープから飛び降りようとする リュウの身体を仲間が必死で取り押さえた。   ボフッ。ドカッ……ン。    爆発音とともに、爆風がジープを襲った。 黒煙が辺りを包む中リュウとハクを乗せた ジープとそれを追うように数台のジープが 隊列を組んで走り去った。  爆風が収まると同時に、  夜空から降ってきた虹色に光るペンダントが 動かなくなったエヴァの身体に静かに落ちると 月のひかりを浴びてキラキラと輝いていた。  
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