止まない雨

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止まない雨

「それ何回目!」 確かに僕はこのミスを昨日も言われた気がする  「タイミングもずれてるし、背中のラインもずれてる!何回言ったら分かるの本当に・・・」 「ごめんなさい」 耳を傾けつつ、目から溢れてくる涙を堪えた。 こぼれ落ちてしまうと『泣きたいのはこっち』と言われてしまう。  「パートナー交代、明日からボックスステップ練習しなさい」 先生は足早に前のほうへ行き、練習終了と告げた。 帰りのミーティングでは先生が何を言っていたのか分からないほどショックだった。 絶対にこの中の全員より努力した、この中の誰よりも上手い自信がある・・・のに。 「また最初からか」 梅雨が続く東京、傘を差しながら足元を見つめながら歩く。 ワルツ教室から自宅まで徒歩10分ほど、それでも明日を考えると歩くのを辞めたくなった。 家の玄関を開けて、食事を無理やり腹に詰め込み、シャワーを浴びてすぐにベットに飛び込んだ。 一秒でも明日のことは考えたくはなかった。  「ちょっと起きて!」 母親に体を揺さぶられながら目を覚ました、いつもならこんなことはしてこないのにどうしたんだろう。  「すぐテレビ見て!」 そう言い残してドタドタと一階へ母は降りて行った。 テーブルの上に転がっているリモコンに手を伸ばし、電源をつけチャンネル5をつける。 画面には眼鏡を掛けた男の人が深刻そうに原稿を読んでいた。  「雨は止む事がなく、一年後地球は水に覆われる事が分かりました」 やった 僕が最初に浮かんでしまった言葉である、今日バレエに行かなくていいんだ、そう思ってしまった。 スマホのグループメッセージを見た限り今日は登校らしい。 ベットから起き上がりハンガーに干してある制服に着替えてからバックを持ち一階へと降りる。  「今日学校あるの!?」 母は驚きに満ちた表情でこちらを見ていた。  「うん、あるみたい」 「はえ~頑張ってね」 母はいつも通りソファーに座りながらコーヒーを嗜んでいる、その奥には朝ご飯のパンと卵焼きがあった。 食事は基本的に早く食べてしまうので、味は関係がない、不味くても美味しくても腹に入れば関係ないのだ。  「いってきまーす」 「はーい」 気の抜けた返事が日常を醸し出しているが、よく考えてみれば一年後地球が水に覆われると言われたのだ、少しぐらい焦っても良いのだろう。
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