1人が本棚に入れています
本棚に追加
「いち、に、さん、いち、に、さん」
彼女の手を引きながら基本のボックスステップを教えていく、呑み込みが早くリズムの取り方も完ぺきですぐに僕と息が合うようになった。
「確かに、これ楽しいね、踊りなら音楽とかあるんだよね?」
いつの間にか掛け声もなしで自然と足が動いている、そんなことにも嫉妬してしまった、自分が少し嫌になる。
手を引きながら「僕の好きな音楽でいいかな」と話すと彼女は満面の笑みで「うん、いいよ」と足を止めた。
「花のワルツ流すね」
スマホの再生ボタンを押してポケットに戻し彼女の手を掴みステップを踏み始める。
三拍子のステップで前後に移動する、ハープの序奏が終わり、ホルンで主題か始まっても僕らはボックスステップを辞めなかった。
手を引いて、首と背中を意識して・・・
「大丈夫?」
彼女は心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
「うん、大丈夫だよ、どうしたの?」
「顔が怖いよ、楽しくやろう?」
集中するあまり、顔に意識が向いていなかった、彼女の顔を見ながら楽しくを意識して体を動かして見せる。
すごいこんなにも、こんなにもずっと彼女は笑顔だったのか。
そうか、ワルツって楽しいんだ。
思い出した、初めてワルツを見た時を・・・優雅に、笑顔で楽しそうに踊っている姿を見て、始めたんだ。
あぁ、分かってしまう、終わってしまう、曲が終わってしまう、こんな楽しくワルツを踊ったのは何年ぶりだろうか、僕は忘れていた、上手くなりたいとか、大会で優勝したいとか、色々考え過ぎて全部忘れていたんだ。
この感情を。
曲が終わり、僕たちの足はゆっくりとスピードを落とし、手を離した。
「どうだった?」
「うん!いいねこれ!すごくいいよ!帰って曲流して試してみるね!」
興奮気味に話す彼女に満足感を覚え、傘を取りに後ろのベンチに足を進めた。
「ありがとうねー!」
後ろから彼女の声が聞こえもう帰るのかと振り向いたときには、もう姿はなかった。
急いで傘とカバンを取り周りを見渡しても彼女の姿は無く、通り雨のようにいつの間にか消えてしまった。
家に帰ると、時間は12時35分を差している、おかしい、僕は確実に二時間はあそこにいたぞ・・・
頭の整理を行うためベットに入り、ワルツの時間まで眠ることにした。
最初のコメントを投稿しよう!