Prologue————*

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——ま、まじでやばいです。心が……《無心の心》が役に立ちません……っっ 「あの……後ろ向き……それとも向かい合わせ、に?」 消え入りそうな声で問えば、「なんでもいいから早く来い」と若干の苛立ちを孕んだ声に一蹴された。 このままでは世に名を馳せる《冷酷皇太子》を怒らせてしまう! セリーナはすっかり床に張り付いてしまった足を無理やりに引きはがす。 怖気(おじけ)ずく気持ちを奮い立たせて片膝を寝台に乗せれば、セリーナの全体重を受けとめたマットレスがぎしり、と不穏な音を立てた。 とたん、天蓋付きの巨大なベッドの真ん中であぐらをかいていたはずの皇太子の腕が伸びてくる。 あっ、と声をあげる間もなく——セリーナの華奢な身体は(たくま)しい腕の中に抱き寄せられ、気付けば美貌の皇太子の胸の中にすっぽりとおさまっていた。 体制を整え、向かい合わせになって皇太子の膝と膝のあいだに座ると、形よく筋張った手のひらがセリーナの腰元に回される。 そのままぐいっと腰を引かれれば、互いの胸と胸とが密着しそうなほどに接近した。 ——距離が……きれいなお顔が近いっっ。は失敗、背中合わせの方がまだマシだった……
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