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「うっめぇ! すげぇな、おまえの婆ちゃん! オレ、こんな旨いおにぎり、初めて食べたぜ」
おにぎりを頬張り、嬉しそうに言う。
へたりこんだ少年から、ギュルギュルと腹の音が響き、少年は恥ずかしそうに優海を見た。二人は自然と顔を見合わせて笑った。
少年におにぎりを一つ渡す。
スープジャーの味噌汁と共に。
「ここで、朝ご飯を食べようと思ったの。よかったら一緒に食べよう」
「い、いいの?」
おずおずと尋ねる少年に優海は頷いた。
大切に、噛みしめるようにおにぎりを頬張る少年。
お味噌汁もきれいに飲んで、二人はポツポツと話し始めた。
少年は、同学年で隣のクラスだった。
入部者がここ数年いなくて廃部になっていた応援団部に入ったこと。
そもそも応援団部には亡くなった少年の父親が入っていたこと、そして学校からほど近い場所にある総合病院に入院している母親がいること、自分の世話は祖父母が見てくれている事などを語った。
優海も島から学校に来たこと、血は繋がっていないけど、昔、島にいたお爺とお婆の家に善紀と共に下宿していること、兄弟同然に育った善紀が最近自分には冷たくて悩んでいること。話そうと思っても話せないことなどを少年に話した。
「ふぅん、なんだか複雑なんだな。でもソイツの噂は、聞いたことあるよ。高千穂善紀、一年にしてエースピッチャー。二年三年を押さえてレギュラー入りしたとか。今年は野球部、いいとこまで行くんじゃない? だからオレも応援団の練習、頑張ってるんだけど。そいつが君に話さなくなったのって、そう言うプレッシャーがあったりするかもね」
優海は少年が話す内容に驚いて絶句した。
一緒に住んでいるのに善紀のこと、全然知らなかった。
黙ってしまった優海に少年が笑顔を見せた。
「オレはさ、部活ついでにオレの声が母ちゃんに届けばいいな、と思って。」
続けて話す少年は、照れ隠しのように鼻の頭をコリコリとかいた。
「母ちゃん、病気で外に出られないから。でも、いつもオレが学校を楽しんでいるか聞くんだよ。だからオレが、学校を楽しんでること、母ちゃんに届けたいと思って。母ちゃんは耳がいいから、ここから叫ぶオレの声を絶対聞き分けてくれると思うんだ」
「きっと、届く。うん、届けたいよね。君の元気を」
胸に小さな感動が灯った美海が少年に力強く、言った。
「ヘヘッ、不思議だな。オレ、こんな話、高校に入ってから誰にもしたことないのに。おにぎりが美味かったせいかな」
「ふふ、私もだよ」
少年が笑う。
「オレ、山本 朔」
「私、檜垣 優海」
微笑みながら名乗り合い、優海は朔に宣言した。
「私も! 私も応援団部に入部したい!」
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