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「ふへぇ、き、きつい。応援団部って声出すだ けじゃないの?」  グラウンドや体育館は運動部でひしめき合っているため、4階建て校舎の屋上まで十往復が最初のトレーニングメニューだった。 「当たり前だろ。声を出すにも体力いるんだから。これが終わったら屋上で筋トレな」 「うぅぅ……」 「ほら、あと一周!」  入部すると宣言した翌日から、優海は部活動を開始した。  朔のトレーニングはきつい。  ヨロヨロと最後の一歩を踏み出して、屋上の扉を開けると、屋上の床に転がり込んだ。 「ふぅ〜、キツい〜」 「女子でオレに着いて来られるって凄いよ」 「島育ちを舐めないでね、こんにゃろぉぅ!」 「おう、その意気だ!」  最初の1週間は身体中がギチギチと悲鳴を上げたが、10日を過ぎた頃から、身体が慣れて来た。 「普通は逆なんだ。日が経つに連れて辛くなる。優海(のざる)が島でどんな生活を送って来たかが分かるな」 「野猿(のざる)、言うな!!!」  朔が笑いながら、優海の荷物を担ぎ上げた。  優海と朔そのまま話しながら屋上から教室に戻る。  朝練から教室に戻った善紀と鉢合わせた。  笑っている朔と優海をジッと見つめる。  先に目を逸らしたのは、善紀だった。  優海は応援団に入ってから、善紀と満足に会っていなかった。  下宿先でも、疲れてお風呂に入るとすぐに眠ってしまい、朝は朔におにぎりを差し入れるため、早く起きて、学校に来るからだった。  黙って善紀の視線を受けた朔は、優海を振り返った。 「優海(のざる)……高千穂(エース)に嫌われてないんじゃね? 今の視線て……」 「のざる言うなって!」  朔の言葉を聞かずに、優海が条件反射で朔に喰ってかかる。  笑顔の優海を見て、朔は続きの言葉を飲み込んだ。  高千穂(アイツ)、今すごい目でオレのこと見たぞ。嫌ってるんじゃない。あれは、ライバル視の目だ。  感じた想いは胸にしまって、朔が優海に言った。 「悪いな、今日の帰りは部活に出られない。母ちゃんの病院に着替え届けなきゃならないから……」  朔の顔が曇る。  優海は朔の頬をムニッと摘んだ。 「笑顔! せっかくお母さんに会うんだからさ。とっときの笑顔で行きなよ。応援団長なんだから」 「応援団と笑顔は関係ないだろ」 「今どき硬派なんて! 歴史は歴史。私たちは私たち! ニコニコ行こうよ。ねぇ、朔。今日私も朔のお母さんに会いに行っちゃだめかな? 応援団部としてご挨拶したい」  優海の言葉にビックリした朔は、咄嗟に言葉が出なかった。  でも、嫌な気はしない。  朗らかで素直な優海なら、母親とも仲良く話せるだろう。  朔は母親が入院してから初めて、少しだけワクワクする気持ちを覚えた。
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