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6
「優しいお母さんだね、朔のお母さん。笑った顔が朔そっくりだったよ」
病院からの帰り道、優海は朔に話しかける。
「オレさ、病院からの帰り道はいつも沈んだ気持ちになるんだよ。治る、って信じてるけど。痩せた母ちゃん見ると、治るのかなって不安になっちゃって。だから、今日は優海が来てくれて、明るく話してくれてホッとした。母ちゃんの手術の話も前向きに受け入れる事ができたよ」
優海は俯いて話す朔の背中をパンッと叩いた。
「手術の日、病院に行くの?」
朔は首を振った。
「母ちゃんが学校行って部活しろって。オレに付き添われると逆に死んじゃう気がするんだって。なんでだよっ!」
自分ツッコミをしている朔が可笑しくて、優海は笑いながら提案した。
「じゃあ、お母さんの手術の日、応援しよう!」
「そんな呑気な事言ってていいのか? 野球部の地区予選、初戦の日だぞ。おまけに相手は決勝戦常連の強豪校だぞ」
「そうなの? でも、きっと大丈夫。だって、高千穂がいるもん。だからさ、朝イチでお母さんに向けて応援しよう。その後試合が始まったら野球部の応援! ほら、動いてた方が色々考え込まなくて済むでしょ?」
朗らかに笑う優海を、羨ましそうに眺める。
「何?」
朔の表情に、無邪気に顔を覗き込む優海。
ずっと話していないって言ってたけれど、高千穂に対する信頼感は絶大なんだな。
朔は心に浮かんだ言葉を飲み込んだ。
「何でもないよ、じゃあまた明日な!」
お婆の家が見える三差路で朔と分かれる。
「ただいまぁ」
「おかえり」
声を掛けながら引き戸を開けると、珍しく善紀が立っていた。
「うわ、ビックリした……。高千穂、今日は早いんだね」
「ここは、学校じゃない」
高千穂の静かな声には、少しだけ怒気がこもっているように聞こえた。
「ん。ごめん。学校と家とごっちゃになっちゃうから……」
「応援団部、入ったんだって?」
「うん」
「アイツと、山本と付き合ってるの?」
善紀がジッと優海を見つめる。
ずっと一緒にいたのに、善紀のこんな表情は初めて見る気がした。
胸が詰まって喉の奥が熱くなる。
その時、奥からお婆の声がした。
「何ぃ? 優海? 帰ったのかい?」
お婆の声を聞いて、善紀は何も言わず二階の自分の部屋に上がっていった。
善紀の怒気が何だか分からずに、優海は玄関にへたりこんだ。
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