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「優しいお母さんだね、朔のお母さん。笑った顔が朔そっくりだったよ」  病院からの帰り道、優海は朔に話しかける。 「オレさ、病院からの帰り道はいつも沈んだ気持ちになるんだよ。治る、って信じてるけど。痩せた母ちゃん見ると、治るのかなって不安になっちゃって。だから、今日は優海が来てくれて、明るく話してくれてホッとした。母ちゃんの手術の話も前向きに受け入れる事ができたよ」  優海は俯いて話す朔の背中をパンッと叩いた。 「手術の日、病院に行くの?」  朔は首を振った。 「母ちゃんが学校行って部活しろって。オレに付き添われると逆に死んじゃう気がするんだって。なんでだよっ!」  自分ツッコミをしている朔が可笑しくて、優海は笑いながら提案した。 「じゃあ、お母さんの手術の日、応援しよう!」 「そんな呑気な事言ってていいのか? 野球部の地区予選、初戦の日だぞ。おまけに相手は決勝戦常連の強豪校だぞ」 「そうなの? でも、きっと大丈夫。だって、高千穂がいるもん。だからさ、朝イチでお母さんに向けて応援しよう。その後試合が始まったら野球部の応援! ほら、動いてた方が色々考え込まなくて済むでしょ?」  朗らかに笑う優海を、羨ましそうに眺める。 「何?」  朔の表情に、無邪気に顔を覗き込む優海。  ずっと話していないって言ってたけれど、高千穂に対する信頼感は絶大なんだな。  朔は心に浮かんだ言葉を飲み込んだ。 「何でもないよ、じゃあまた明日な!」  お婆の家が見える三差路で朔と分かれる。 「ただいまぁ」 「おかえり」  声を掛けながら引き戸を開けると、珍しく善紀が立っていた。 「うわ、ビックリした……。高千穂、今日は早いんだね」 「ここは、学校じゃない」  高千穂の静かな声には、少しだけ怒気がこもっているように聞こえた。 「ん。ごめん。学校と家とごっちゃになっちゃうから……」 「応援団部、入ったんだって?」 「うん」 「アイツと、山本と付き合ってるの?」  善紀がジッと優海を見つめる。  ずっと一緒にいたのに、善紀のこんな表情は初めて見る気がした。  胸が詰まって喉の奥が熱くなる。  その時、奥からお婆の声がした。 「何ぃ? 優海? 帰ったのかい?」  お婆の声を聞いて、善紀は何も言わず二階の自分の部屋に上がっていった。  善紀の怒気が何だか分からずに、優海は玄関にへたりこんだ。  
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