1/1
前へ
/9ページ
次へ

 優海と朔は屋上から、グラウンドまで駆け下りた。感動した優海が善紀を見つけて、駆け寄って行く。 「高千穂ぉ! ありがとう! 野球部の皆さん、ありがとうございますっ!」 「善紀の彼女が応援してくれてるんだから、俺達だって応援したいと思ってさ。それだけ」  優海の言葉に照れてそっぽを向く善紀と、善紀をからかう野球部員たち。  朔が善紀と野球部員たちに頭を下げた。 「ありがとうございましたっ! 押忍っ」  そして、頭を上げるとにやりと笑って言い放つ。 「でも、別に優海は、高千穂(エース)の彼女じゃないでしょ」  即座に善紀が答えた。 「ちっさい頃から、俺は優海の声しか届いてないです。優海の応援なら、俺は絶対に聞き分けられます。いつだって、優海のエールはオレに届くんですよ」 「冷たくしてたくせに?」  憮然として言う朔に、善紀が言った。 「それは……。優海には、オレばかりじゃなくて、自分の高校生活を楽しんで欲しいと思って……」  善紀の真っ直ぐな言葉に野球部員たちがヒューヒューと口笛を鳴らした。  優海は不貞腐れた表情の朔の腕をそっとトントン、と叩く。  そして善紀に言った。 「応援、するからね」  朔も再びニヤリとして言い添えた。 「仕方ないからな」  善紀は無言で頷いた。 「あざっす!」  野球部員たちが帽子を脱いで、ペコリと頭を下げた。 「プレイボール!」  掛け声と共に試合が始まった。 「青空高校野球部ー! 駆け抜けろぉ! フレェー! フレェー! あーおーぞーら」  優海と朔の応援がグラウンドに響き渡る。    打って、捕って、走って。  野球部員たちは、汗だく、土まみれになっている。  4対3。9回目。  ツーアウト満塁。  ここで打たれたら、逆転負けとなる。  優海と朔は、声の限り応援する。  届け、熱い気持ち。  力の限り放つエールよ、届け。    マウンドに立つ善紀に。  野球部に。  優海と朔の願いが、応援が、  皆の胸に熱い火を灯す。 「ストライク! バッターアウト!」  グラウンドから歓声が上がる。  グラウンドから善紀が高々と拳を突き上げる。  優海も応援席から拳を突き上げ、朔は団旗をはためかせた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加