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8
優海と朔は屋上から、グラウンドまで駆け下りた。感動した優海が善紀を見つけて、駆け寄って行く。
「高千穂ぉ! ありがとう! 野球部の皆さん、ありがとうございますっ!」
「善紀の彼女が応援してくれてるんだから、俺達だって応援したいと思ってさ。それだけ」
優海の言葉に照れてそっぽを向く善紀と、善紀をからかう野球部員たち。
朔が善紀と野球部員たちに頭を下げた。
「ありがとうございましたっ! 押忍っ」
そして、頭を上げるとにやりと笑って言い放つ。
「でも、別に優海は、高千穂の彼女じゃないでしょ」
即座に善紀が答えた。
「ちっさい頃から、俺は優海の声しか届いてないです。優海の応援なら、俺は絶対に聞き分けられます。いつだって、優海のエールはオレに届くんですよ」
「冷たくしてたくせに?」
憮然として言う朔に、善紀が言った。
「それは……。優海には、オレばかりじゃなくて、自分の高校生活を楽しんで欲しいと思って……」
善紀の真っ直ぐな言葉に野球部員たちがヒューヒューと口笛を鳴らした。
優海は不貞腐れた表情の朔の腕をそっとトントン、と叩く。
そして善紀に言った。
「応援、するからね」
朔も再びニヤリとして言い添えた。
「仕方ないからな」
善紀は無言で頷いた。
「あざっす!」
野球部員たちが帽子を脱いで、ペコリと頭を下げた。
「プレイボール!」
掛け声と共に試合が始まった。
「青空高校野球部ー! 駆け抜けろぉ! フレェー! フレェー! あーおーぞーら」
優海と朔の応援がグラウンドに響き渡る。
打って、捕って、走って。
野球部員たちは、汗だく、土まみれになっている。
4対3。9回目。
ツーアウト満塁。
ここで打たれたら、逆転負けとなる。
優海と朔は、声の限り応援する。
届け、熱い気持ち。
力の限り放つエールよ、届け。
マウンドに立つ善紀に。
野球部に。
優海と朔の願いが、応援が、
皆の胸に熱い火を灯す。
「ストライク! バッターアウト!」
グラウンドから歓声が上がる。
グラウンドから善紀が高々と拳を突き上げる。
優海も応援席から拳を突き上げ、朔は団旗をはためかせた。
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