プロローグ・死者の遺伝子

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「私の著作物は評価される事なく、埃を被って蔵書の墓場に埋没したのです。随分と時は過ぎ去ったとはいえ、敢えて掘り起こす必要がありますか?」  篠原紗代子は紺色の織物生地に刺繍を施された上着とスカートを着用し、黒縁眼鏡を掛けて縞模様の白髪黒髪を黒のカチューシャで押さえ、腕と足を組んでフロアの中央の椅子に座っている。  文部科学省の面接官は五名。質問した面接官は履歴書に視線を落とし、紗代子の発言を無視してデスクをペンでコツコツと叩き、『恋愛人種とは?』の返答を待っている。 ・篠原紗代子 生年月日 1988年9月9日 (36歳) 松本清流大学で人類学・心理学を学び、大学院卒業後、フリーランスの恋愛アドバイザーとなる。(著作「恋愛人種」・絶版) 「では簡単に説明します。面接官の方々も含めて、『好きになったら、止められますか?』という質問に、四十代後半の男女は『恋なんて思い込みに過ぎないから、簡単に止められる』と答える。でも、ティーンエイジャーの大多数は『NO』と答えた。つまり大人になっても恋愛能力を失わず、進化している者を『恋愛人種』と定義付けます」
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