抵抗不可能

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 気を取り直して指を摘む。マニキュア、持ちにくいな。プルプル震えながら爪にハケを乗せる。透明だから塗りムラが分かりにくい。爪全体が光っていたら塗り残しはないだろうから大丈夫か? 全部塗り終わって大きく息を吐き出した。小さな爪に塗るのって、結構目が疲れるな。眼鏡をとって目頭を揉む。 「黒崎君って眼鏡取ると印象変わるね」 「そう? でも眼鏡がないと何も見えないから外せないよ」 「俺の顔は? この距離でも見えないの?」 「顔があるのは分かるよ。でもボヤけてて、笠井君かな? って感じで、はっきり誰がいるかは分からない」 「そっか、どれくらい近いとボヤけないの?」 「これくらいかな」  テーブルに手を付いて身を乗り出す。ボヤけない位置まで顔を近付けた。目と鼻の先にある笠井君の顔は真っ赤で、水分を多く携えた大きな瞳がゆらゆら揺れている。だからそういう顔は、イケメンの前でしてくれ。  身を引いて座り直し、眼鏡をかけた。乾くまで暇だな。 「早く乾かす方法ってないの?」 「えっと、ドライヤーあるかな? 冷風当ててくれると少し早く乾くよ」 「分かった、ちょっと待ってて」  笠井君の爪にドライヤーを当てる。近付け過ぎてはダメだと言われて、加減が難しい。 「どうかな? 乾いたと思うけど」  笠井君は手の甲側を顔の前にして、1本ずつチェックしている。 「うん、ありがとう。じゃあ次は色塗って」 「どの色をどこに塗ればいい?」 「それは黒崎君のセンスに任せるよ」  俺にセンスなんてないが??   迷ったけど、男性キャラが3人、女性キャラが2人だから、人差し指と薬指を女性キャラにして、残りを男性キャラにする事にした。  爪にマニキュアを塗っていく。透明で少し慣れたと思ったけど、色を均等に塗るのは難しい。バケツツールが欲しくなる。 「黒崎君はこのゲーム長くやってるの?」 「一年くらいかな」 「じゃあ俺より長いね。今度マルチしない? 倒せない敵手伝って欲しいな」 「いいよ、一緒にやろ」  顔を上げて笠井君を見上げる。柔らかい笑顔があった。今日の笠井君はおかしいぞ。うちに来ていつものビッチな表情がなりを潜めて、リラ君のような清楚な雰囲気を醸し出している。金髪ピンクメッシュで爪は派手な色になろうとしているけど。
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