抵抗不可能

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「ねぇ、何かお礼したいな。何がいい?」 「いや、いいよお礼なんて。俺の落書きの事黙っててくれれば。喉乾かない? ドリンク持ってくるから待ってて」  疲れはしたけど絵を描くのは好きだし、爪に描くなんて貴重な体験をさせてもらった。  笠井君の好みが分からないから、お茶とコーラをグラスに注いで持っていく。先に選んでもらって、余った方を俺が飲もう。  部屋に戻ると笠井君は本を読んでいた。グラスをテーブルに置く。 「何読んでるの?」 「枕元にあった漫画」  枕元にあった漫画?! それって昨日表紙買いしたオメガバースじゃん! アワアワしている間も笠井君はページを捲る手を止めない。  ……もしかして笠井君もお仲間? こちら側の人間ならいくらでも読んでもらって構わない! むしろレイン様とリラ君の素晴らしさを語り合いたい。  大人しく座って、笠井君が読み終わるのを待つ。本を閉じると表紙のレイン様を指された。 「今日ノートに描いてたのってこのキャラクター?」 「うん、よく分かったね」 「だってめっちゃ似てるもん! 黒崎君はこういう漫画が好きなの?」  ……あっ、コレ絶対お仲間じゃないやつだ。何て言おうか迷っていると、笠井君は本を俺に手渡した。  後ろを向いて襟足を掻き上げる。日に焼けていない綺麗な項があらわになった。こちらを振り返った笠井君は頬を染めていた。 「噛んでもいいよ? 今日のお礼」 「………………は?」  言われた事を理解できず、たっぷりの間の後に呆けた声が漏れた。  お礼に噛んでいいって何? 俺とオメガバースごっこするの? 俺じゃなくてイケメンに噛ませるところを見せてくれよ。それが何よりのお礼になるから。 「あっ、もしかして噛まれたい方だった?」  行動を起こさない俺に見当違いな質問をしてくる。 「いや、噛むか噛まれるかなら噛むほうがいいかな」 「じゃあ、はいどうぞ」  後ろを向いて噛みやすいように少し下を向いてくれる。いやいやいや、どうぞと言われても。 「あのさ、俺噛まないよ」 「何で?」  何でって、何て言ったら納得してくれるんだろう。 「えっと、この漫画読んだんだよね」 「うん、読んだよ」 「じゃあさ、好きな人にしか噛ませちゃダメだって分かるよね?」 「黒崎君にしかこんな事しないよ」  剥き出しの項を真っ赤に染めて、消え入りそうな震える声がした。  えっ? もしかして笠井君で妄想しまくってたビッチの処女返りが今起きてるの? 相手俺?!  振り返った顔は眉尻を下げて大きな瞳に涙を浮かべていた。顔は全体的に赤い。やっぱり可愛い。  金髪ピンクメッシュだけど、リアルリラ君が目の前にいる。でも、俺がレイン様とか厚かましいにも程がある。
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