抵抗不可能

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「黒崎君、俺の事番にして?」  笠井君にこんなにしおらしくお願いされて断れる男なんているのか? 可愛い笠井君に触れてみたい俺とモブでいたい俺が葛藤している。 「……考えさせて」  はっきりと返事をせずに先延ばしにしてしまった。それでも笠井君は笑ってくれた。 「それって、俺の事全くダメってわけじゃないって事だよね?」 「あっ、うん」 「じゃあ、黒崎君に噛んでもらえるように頑張るね!」  笠井君は俺でいいの? 引くて数多だろうに。  笠井君の手が俺の手を握る。でもすぐに離れていった。 「今日は帰るね、また明日!」 「うん、また明日」  はにかんで手を振り帰っていった。  1人残された部屋でパニックに陥る。笠井君が俺を好き? いや、何で俺? 考えても全く思い浮かばない。とりあえず手のつけられなかったコーラとお茶を一気に飲み干した。  次の日教室に入るのに勇気がいった。何度も深呼吸を繰り返して引き戸を開ける。 「見て、可愛いでしょ! ゲームのキャラクター描いてもらっちゃった」  はしゃぐ笠井君の声が聞こえた。内緒にしてと言ってあるから、俺が描いたとは言わないでくれるだろう。 「これね、好きな人が書いてくれたの!」  笠井君の爆弾発言にクラスは阿鼻叫喚の現場と化した。野太い悲鳴が上がり、男達がうずくまる。  俺が席に着くと、笠井君と視線が交わった。笠井君も席に座り、後ろを振り返る。 「おはよ、謙也くん。今日もよろしくね」  俺の耳に口を寄せ、色を塗っただけの左手を見せられた。  未だに男達の泣き叫ぶBGMが流れている。  頬骨を上げて可愛く微笑む笠井君に、今日から俺も振り回されそうだ。  だって授業中ずっと見えている項を噛みたくてしょうがない。
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