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女子の体育活動が世間一般に認められるようになったのは、そう遠い昔のことではない。
激しい運動は体を損なう、とか、大事な部分を傷つけてしまう、等言われていて、「嫁入り前」の少女達の二の足を踏ませている。
だが近づくオリンピックは、多少その風向きを変えているようだった。
そんな校風の中で学ぶ中には、進学して体育の教師になろう、と思う者も何人かは居た。
皐月もその一人だった。
「だって、進学して、やろうと思ってることが決まってるじゃない」
「まあそうだけどさ」
んー、と皐月は首を傾げた。
「何、多希子、あんたは決まってるんじゃなかったの?」
「決められそう、で嫌なのよ」
「はあん?」
面白そうだ、と皐月はあごに指を掛ける。
歩きながら喋り続けていく二人の横を、級友や後輩達があいさつしたり、笑い掛けたりして行く。
二人の仲の良さは、校内でも有名だった。
「何あんた、見合いの話でも出てるのかい?」
「まだよ」
「まだ」
「でも何となく、お母様の動きがここしばらく妙で」
うーん、と皐月はうなった。
「まあ、ねえ。仕方ないと言えば仕方ないよなあ。あんたは建築会社の一ノ瀬組のご令嬢。できれば早く良い所に縁付けて、会社とあんたの両方にとっていい結果に持って行きたいんだろうねえ」
「そういうあなたのずけずけ言う所、嫌ぁよ」
「でも間違っていないだろ、わたしは」
多希子は黙って肩をすくめた。
間違ってはいない。
間違っていないから、嫌なのだ。
「ところで、あんた昨日はどうしたんだ? ずいぶんと早く帰ったじゃないか」
「ああ…… お母様の用事があって、会社の方へ行ってたの」
「それだけかい?」
「それだけ、って何よ」
眉を寄せると、ふふん、と皐月は鼻で笑う。
「いや、あんたがそれだけで済ますとは思わないから」
「あなた私をどういう目で見てるのよ。間違いじゃないけど…… 銀座へ寄ってたの」
「へえ。何? 化粧品でも切らしたのかい? それとも舶来のレターペイパーでも入った?」
友人が行きそうな所を、皐月は次々に挙げてみせる。
そしてそのたびに多希子は首を横に振った。
「全部はずれ」
「じゃ何だい」
「新しい、服部時計店を見に行ったの」
「へ? あの角の? ああ、そう言えば、新しいビルヂングができたらしいね。何でまた。時計をかい? 新調するなんて話は聞いてなかったけど」
「違うってば。時計台を、よ」
とけいだい? と皐月は足を止めた。
「それだけかい?」
「それだけよ。うん、思った通り。やっぱり綺麗だったわ」
はあ、と皐月はうなづいた。
それは、果たしてどう答えたものか、という表情だった。
「でもね、聞いてよ皐月、その後にこんなことがあったのよ!」
多希子は昨日の不良少女団に囲まれた時のことを堰を切ったような勢いで喋り始めた。
身振り手振り混じりで一生懸命な友人に、皐月はあはははは、と高笑いを返した。
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