2人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
第4話 高等女学校の運動少女な友人
「おはようございます」
「おはよう、多希子さん」
いつもの朝が始まる。
夏服に替わった女学生の群れが校門の中へと吸い込まれて行く。
多希子の通う府立の高等女学校は、官立ながら、リベラルな校風で知られていた。
それは校長の考えが大きく反映しているらしい。
ポーン、とその反映した結果が耳に届く。
彼女は教室に向かう前に、テニスコートへと向かっていた。
「皐月!」
壁打ちをしていた一人が、手を止めた。
ボールを拾い、ラケットを肩にかつぐと、小走りで彼女の方へと近付いてくる。
「おはよう、多希子」
耳の下くらいまで短くした髪を揺らし、皐月は汗をかいた額をぬぐいながら、多希子に笑いかけた。
「今日もあなた、朝早いのね」
「まあな。最後の試合も近いことだし」
ふふ、と多希子もつられて笑う。
彼女達五年生は、次の試合で引退だった。
「高等師範でもあなた、続けるつもり?」
「まあ受かってからの心配さ。体育科だから、何かとできることはあるだろうし」
そうよね、と多希子はうなづいた。
「いいわね、皐月は」
「何だよいきなり」
タオルを首に掛け、皐月はコートのベンチに放り出してあったカバンを取ると、行こうか、と多希子をうながした。
二人が並んで歩くと、多希子は長身の皐月の肩くらいしか無い。
その長身を活かして、友人はこの学校時代、運動にいそしんだのだ。
最初のコメントを投稿しよう!