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「何よ、笑うことはないじゃないの」
「いや、ごめんごめん。いや、よっぽど喋りたかったんだろうなあ、と思ってさ。しかしあんた、そんなに服部時計店の時計台、見たかったのかい?」
うん、と多希子は大きくうなづく。よくわからん、と皐月は頭をかく。
「わたしは結構あんたと長いつきあいだけど、そういう趣味があったとはねえ」
知らなかった知らなかった、と皐月は手を広げ、大きな声で言う。
「あら私、ずっと好きだったわよ。大きな綺麗な建物ってのは。特に最近のものは。ただ、だって、あなただってそうやって、驚いてるじゃない」
「そりゃあ、まあね。でもまあ、あんたは建築屋の娘だし」
「そう言ってくれると、ね」
まだいいのだが、と彼女は思う。
「それにしても、その女ボス、なかなかだな」
「奴よばわりはないでしょう?」
「ふうん?」
腕組みをして皐月は興味深そうに友人を眺めた。
「何よ」
「ずいぶんと気に入ったもんだねえ。ちょっと妬けるよ」
もう、と多希子は友人の腕をはたく。
校内ではその仲の良さに、SだSだと半ば本気で彼女達は言われている。
実際はそういう仲ではなく、あくまでさっぱりとした友達同士だったのだが。
「だまされてる、ってことはないのかい?」
「まああなたは」
ふふん、と皐月は笑う。
「や、あんたは石橋を叩いて壊すくらいのくせに、気に入ったものにはひどく甘いから」
「かもしれないけれど」
違わない。
自分のことは良く知っているつもりだ。
「ま、あんたのことだから、止めはしないけれどさ。止めても聞かないし。ただ、深みに入りそうなら、とっとと逃げ出してきなよ」
「ご忠告ありがとう」
あ、時間、と彼女達は足早に教室へと入って行った。
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