第1話 銀ブラ中にご用心

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 はっ、と多希子は目を大きく開ける。  剃刀がぴたぴた、と頬に当てられる。  さすがに背筋にぞわり、と悪寒が走った。  だが不思議なもので、一度通り過ぎてしまうと、肝が据わるらしい。 「そりゃあ持ってるわよ!」 「だったらいいじゃないか。出しな」 「けど私が持ってるったって、私のじゃあないわ! お父様のお金よ! 人脅して簡単に巻き上げるようなあなた方にはいそうですかと右から左にあげる訳にいくものですか! あなた方自分で稼いでいるんでしょう!」 「は、稼がなくていいお嬢さんが言うねえ!」 「親父さんでもあんたでも、あたし達には同じことだよ!」  ぐい、と掴まれた腕が後ろに回されるのを彼女は感じた。  ほらほら、と別の子がその腕を押さえつける。  長く伸ばして後ろで編んでいる髪が、掴まれる。  痛い、と彼女はもがく。  その一方で、「身体検査」でもするつもりだろうか、と奇妙に冷静に考えていた。  そして、反撃の機会を狙う。  ここでさっさと金を出して逃げ帰る方が安全なのは判ってる。  だけどそんなことしたら、お使いのついでの、たまの銀ブラを父親から禁止されてしまうかもしれない。  危険だから、と。それは嫌だった。  多希子は必死でばたばたともがく。  後で思えば、かなりこれは危険だった。  顔には相変わらず剃刀が突きつけられていたのだから。  そして本当に蹴り飛ばしてやろう、と彼女が思った時だった。 「そこまでにしておきよ」  低めの声が響いた。  多希子はその声に顔を上げる。  目の前の着物の子の後ろに、断髪に洋装の少女が、腕組みをしてふらりと立っていた。
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