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第13話 新たな道行き
「多希子さんは、N女子大学校の家政学部に住居学科というのがあるのをご存じですか?」
珈琲を前に、宇田川はそう切り出した。
「住居学科?」
「前にお話したでしょう? 女性の建築家は無い訳ではない、ということを」
彼女はうなづく。
「他にもそういう学校があるかもしれませんが、僕が知っている限りでは、あの学校は、一級建築士の資格が取れるはずです」
「え」
多希子は思わず声を立て、テーブルクロスを掴んでいた。彼は確か、というようにあごに手をやる。
「住居、だから家庭のこと、と皆あの学部のことを見がちですが、やっていることは何てことない、結構な理系の学問ですよ。いや、僕は、家事一切というものは、基本的に理系だと思いますがね」
「ということは」
多希子の表情が見る見る間に変わる。
「それに、専門学校を…… ああ、女子大学は、専門学校だ、ということはご存じですよね」
「一応」
皐月が進学する、と聞いた時に、聞いたことがあった。
「高等師範とかと同じように、あれは女子『大学』とは称していますが、実質、専門学校です。だがそこを卒業すれば、例えば帝大でも東北大とかなら、今では女性の入学を許しています。中には帝大の聴講生になって、そこから建築事務所に入っていく、という方法もある訳です。まああなたの場合は、お家がお家ですから、よその事務所に行くということはできないでしょうが」
「本当に、できるんですか? 女も大学で」
「全くできないことは、ないです。現にそうやっている人もいる」
ぱん、と多希子の中で何かが弾けた。
「あなたがそうしたいのなら、僕も応援しましょうか?」
応援。その言葉がひどく嬉しく感じる。だけど。
「お気持ちはとっても嬉しいですが、とにかく私、ひとまずは自分で当たってみたいと思いますの」
そうですか、と彼は笑う。
「まず、父に当たってみたいと思います、ただ」
「ただ?」
「少し、お願いがありますの」
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