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「きっとお母様はそう言って下さると思ったのよ。あの方は、私が嫁がないうちには、妹の由希子を結婚させる訳にはいかない、って思っているから。だから私の縁談が壊れてしまうことのほうを恐れると思ったわ」
くすくす、と笑う多希子。ハナは腕組をしながら目をむく。
「驚いた! 嘘一つつけそうにないあんたがねえ!」
「あら、私結構小賢しいのよ。知らなかった?」
何も言わずに、ハナは苦笑する。
「で、彼と結婚、するのかい?」
「さあぁ」
多希子は首をぐるりと回す。
「さあぁ、ってあんた」
「だって私、どうしてもそうしたかったんですもの。この学校に入って、建築を勉強したかったんですもの」
にっこりと多希子は笑う。その笑みにハナはぞくり、とする。
「別に全くの嘘でもないしね」
「じゃあ何。彼のことも、好きになってしまった訳かい?」
「あら前にも言わなかった? 宇田川さんのことは、結構好きよ。一緒に居ると楽しいし、会わないとつまらないし」
「そこまでは聞いていないよ。それって、充分『好き』じゃないか」
「でも結婚したい程かどうか、まだそれはわからないわ。まだ私達、距離置いてるし」
「そうか」
「それに結婚は生活ですもん。だから宇田川さんとはもう少しゆっくりおつきあいしてみようと思うし。それは彼も承知の上だし。その上で、どうしてもその気にならなかったら」
「ならなかったら?」
「その時は、その時よ! ねえ、その時にはあなた、私と一緒に暮らさない?」
呆れた、ハナはあははは、と笑った。その声につられて多希子も笑い出した。
あまりにもその声が大きかったので、寮舎の近くの窓から抗議が来たくらいだった。
二人はそれで、翌日から入学早々、寮内の有名人となってしまうのである。
しかしとりあえず、この日の二人には、そんなことはどうでも良かった。
やっと、足を踏み出せるのだ。
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