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一方「ボス」の少女は手をひらひらと振る。
それが合図の様に、少女達は着物の袖を振り振り、下駄の音をからころとさせながら、右へ左へと散っていく。
彼女たちを見ながら、多希子は仏頂面を続けていた。
やがて周囲が静かになったのを見計らい、ようやく口を開く。
「いつもこんなこと、してるのかしら?」
ふふん、と「ボス」の少女は首を傾ける。
柄の悪い少女達がぞろぞろと脇道から出てきたので、通りの人々はようやくこちらを向く。
今更! と多希子は唇を噛んだ。
そんな周囲の視線をはね除けるように、「ボス」の少女は一度ぐい、と辺りを見渡す。
そして短く刈った髪を何度かひっかき回した。
「いつも、じゃないけどねえ」
「嘘」
多希子はすぐに返した。
「嘘ってなあ、お嬢さん…… そりゃ遊ぶための金を持ってひらひら銀座を歩く奴には、時々」
「いいと思ってんの!?」
「ふん。取られても別に今日明日困るんじゃないような暇な連中だよ。真面目そうな毎日せっせとお勤めに励んでるような奴からは取らないさ。そのくらいの見極めはつくさあ」
「それで私を狙ったって言う訳? 冗談じゃあないわ!」
多希子はぶるん、と首を横に振る。
「だから見当違いだよ。あたしが最初から居たら、そんなこた、させなかったさ。だいたいあんたがいくらお嬢さんでも、そんな、一人でぶらぶらしてる時にすごい金持ってる訳ないじゃないか。持ってるようだったらよっぽどの馬鹿だけどさ。あんたはそうでもないようだし。だったら時間の無駄さ」
はは、と「ボス」の少女は笑った。
「そういう問題?」
「まあね。やっても無駄なことはしない」
「何か違うと思うわ」
おや、とばかりに太い両眉が上がった。
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