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「さっきも思ったけれど、お嬢さん、あんたずいぶんと度胸があるねえ」
目の前で指を一本立てる。どき、と多希子はその仕草に心臓が飛び跳ねるのを感じた。
「たいていの『お嬢さん』はこんなことあれば、泣き帰るもんだけどなあ」
「いけません?」
「いけなくはないさ。ただ珍しい、って言ってるんだよ」
腰に手を当て、彼女はのぞき込むように多希子の顔をぐっ、と見据えると、付け足した。
「言っておくけど、誉めてるんだからね」
「誉め言葉には聞こえないわよ?」
多希子は思わず苦笑いをする。
「ま、いいわ。私もう、帰らなくちゃ」
「そ。じゃあまあ、これからまた銀座でこんな風に襲われたら、こう言いな。自分はヒナギク団のハナの知り合いだ、って」
「ハナ? ヒナギク団?」
「あたしの名。磯山ハナ、って言うんだよ」
なるほどそれで団に花の名をつけているのか。だがあの白くて可憐な花を想像したら、何となくおかしくなってしまった。
「お嬢さんじゃないわ。私は一ノ瀬多希子」
「多希さんか。覚えておくよ」
そしてじゃあね、と手を振ると、ハナは銀座の雑踏の中に消えて行った。
時計台から、五時を告げる美しい音が聞こえて来た。
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