3人が本棚に入れています
本棚に追加
見慣れたいつもの店内。それなのに今日は何故か空いていた。
駅近くのファミリーレストランは、昼時になるに従って家族連れやサラリーマンで賑わうはずだった。
まばらには席が埋まっているものの、私の席の周りは空席のままだ。
腕時計を見ようと腕を上げたところで「お待たせ」と声が降る。
晴翔が私の目の前にグラスを置く。
「いつもアセロラドリンクだよね。ドリンクバーで置いてる店なんて、ここぐらいじゃないのか」
向かいの席に腰掛けながら、やや不服そうな声を出す。そういう自分だって、いつも通りこだわりのコーヒーだった。
「晴翔だって、ここのドリンクバーのコーヒーが一番美味しいって言ってたじゃん」
「……そうだけど」
指摘されて少し膨れる。どんなに歳を重ねても、昔と何も変わっていない。
「時の流れって早いね。もう俺たち三十代突入だよ」
ガムシロとミルクを二つずつ入れながら、晴翔が重いため息を吐く。相変わらず甘ったるそうなそれに、私の眉間が自然と寄っていた。
「早いね。二十代もあっという間だったけど」
「ホントそれな」
晴翔はストローに口をつける。
「これから人生どうなっていくんだろ」
この先のことを考えると、ぼやくことしか出来ない。
「自分次第でしょ。好きにすればいいと思う」
出た。晴翔の決まり文句。言いたいことは分かるけど、そうじゃない時もあるのに。
「晴翔はいつもそうだよねー。好きにすればいいって。あの時だってそう。私が進路を迷ってた時に、一緒にいたいって言ってくれてたら――」
さっきまでの長閑な会話から一転、私は溜まった鬱憤を晴らすかの如く捲し立てていた。
大人なった今なら、晴翔の言っている意味の正しさを知っている。それなのに私の口から出る言葉は、今の冷静な私とは違う感情論だった。
最初のコメントを投稿しよう!