3人が本棚に入れています
本棚に追加
そういえば、あの時も私は晴翔を責めていた。
あれは高校三年生の夏。私は進学先を地元か上京で迷っていた。晴翔は上京することを決めていて、私はついていくか決められずにいた。初めて親元を離れる不安。知らない土地での生活が想像に難しかったからだ。
それでも晴翔が一緒に行こうと手を引いてくれたなら、私はその恐怖ですら乗り越えられていたかもしれない。
でもそんなことはなく、「自分が行きたい道を歩まないと」と至極真っ当なことを言った。
いつもそうだった。甘党な癖に考え方は大人びていて、正論を吐く。私にはそれがすごく薄情に感じられていた。
まだ多感な高校生でもあり、甘い夢みがちだったのは否定できないし、今の自分は晴翔が正しかったということを身に染みて分かっている。
そのはずなのに私は今、晴翔を責めるような真似をしていた。
「あの時、一緒の大学に入ろって言ってくれてたら、別れたりしなかったのに」
嫌味のような発言をして、私はやっと口を閉じる。
晴翔は困ったような顔で、「そうかもしれないけど」と呟く。眉間に寄った皺に、私の胸もくしゃりと歪む。
こんなはずじゃなかった。何を言っているんだろう。
同じ学校じゃなくたって、遠距離恋愛も出来たはず。それなのに別れを切り出したのは自分の方だ。
自分が下した判決に対して、晴翔を責めるのは違う。時が経つに連れて、私は何度も後悔してきたはずだった。
「私のこと、本気じゃなかったんだね」
あの時と同じ言葉。私は同じ過ちを繰り返していた。
最初のコメントを投稿しよう!