空の知らない虹

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「お見合い?」  自分には関係のない話だと思っていたのに、ある日父が私に縁談を持ちかけた。 「いい奴らしいぞ。一度会ってみないか」  同業者の息子さんだという。仕事で手を組む話に始まり、お互いに年頃の子どもがいることからその流れになったらしい。 「お前みたいなおきゃんでもいいなんて、奇特な奴もいたものだ」  強制ではなかったが、いざ自分の身に降りかかると胸に何か詰まっているようで苦しかった。私はその気持ちをもて余して、透さんに不安を打ち明けた。 「いいお話じゃないですか」  にこやかに言われて、置いてきぼりを食らったような気分だった。確かに私たちは、条件付きの友人関係だった。なのに、彼の言葉が寂しく、冷たいものに感じてしまう。 「本当にそう思いますか」 「ええ。話が急で今は不安でも、会ってみたらいい人かもしれませんよ」  そんなものだろうか。確かに話もしないで決めつけるのは失礼だと思った。ひとまず会うことを決めたが、結婚なんてまだ考えられなかった。 「じゃあ、来週の約束は…」 「美術館は再来週にしましょう。展示もまだやっているはずです」 よかった また会えるんだ 彼の言葉にやっと肩の力が抜けたが、次の不安がまた湧いてくる。 もし いい人だったら? その先はどうするんだろう。どこへ向かっていいのかもわからない。このまま彼と友だちでいることは出来ないのかと考えた時、初めて彼の個人的な領域に踏み込むのが少し怖くなった。知ってしまったら、もう戻れないような気がしたからだ。  お見合いの相手は六つ上の快活な男性で、声も話し方もまるで太陽みたいな人だった。この人を好ましいと思うのと透さんを慕う気持ちと、そもそも比べることなんて出来なかった。 透さんに 自分の気持ちも話してみよう 私は密かに心に決めた。 だけど約束の日、彼には会えなかった。待ち合わせの店にも現れず、喫茶店は休業中の札がかかっている。 そんなことは初めてだった。 何かあったのかしら それとも もう会わないつもりなの …お見合いの話が出たから? それが彼の答えだったのだろうか。最後になるとしてもきちんと話が出来ると思ってたのに、気が変わってしまったのか。お店で会う以外に伝える手段が何もなくて、私は途方に暮れた。それ以来、彼との連絡はぷっつりと途絶えてしまった。
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