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しばらく呆然としていると、頭が冴えてきた。
えと、あの男性は私のことを『ケオ』って言った。
ということは、私は『ケオ』っていう女の子。
で、あの人は……だれ?
「えっと……」
「どうした、ケオ?」
本当に知らないんだけど?
ええい、こうなったらヤケクソだぁっ!
「あの…あなたは、だれですか?」
思い切って、どうなってもいいから聞いてみた。
すると、その人は神妙な顔をして言った。
「俺はシエロだ。お前は…お前の中身は誰
だ?」
「っ?!」
私、転生したんだ…
って私の正体バレてる?
それって結構やばいことじゃない?
殺される…とか。
でも、言わないとこの視線からは逃れられない。
「わ、私の中身は、絃葉」
言った以上、捨てられても文句はない。
「……私を捨てるの?」
ぽつりと、私の口から思わずそんな言葉がこぼれた。
と同時に、大粒の涙がポロポロとこぼれ始めた。
絶対捨てられるから、聞いても意味ないのに。
こんな私が、幸せに暮らせるはずないのに。
絃葉のときは、前世は、本当に酷いものだった。
だから、今世だけは、幸せに最後まで暮らしたい。
そう願ってしまった。
それを聞いたシエロさんはしばらく目をつぶっていたけど、目を開いて言った。
「いやなんで捨てるんだよ。お前は俺が育て
る」
「なんで?私は出来損ないで、シエロさんが
思ってる、今まで育ててきたケオとは違う
のに」
すると、シエロさんは心底不思議そうな顔をして言った。
「でも、ケオに変わりはない。あとさ…そ
の、目からこぼれてる水滴を止めてくれな
いか?気が狂うんだよ」
ケオに変わりはない?
中身が変わってるから、変わりあると思うんだけどな。
涙を止めろ?
どうやって止めるの?
「ひぐっ、ぐすっ」
「頼むから、涙を止めてくれよ」
「ぐすっ、どうやってっ、止めればいいのかっ
わかんないっ」
シエロさんはしょうがねぇなぁっていう感じで、頭を撫でた。
「しょうがねぇなぁ。じゃ、ちょっと頑張り
ますか」
頑張るって、何を?
そう思いながら泣いていると、突然上の方が光った。
「へっ?」
その光る玉のような物体は弾けて、私の上に降り注がれた。
すると、私の涙が引っ込んだ。
「え…?なに?何が起こったの?」
私があたふたしていると、シエロさんが教えてくれた。
「これは治癒魔法。ま、俺は魔法使いだ」
「魔法使い!!すごい!!!」
「いや、まぁ」
シエロさんは恥ずかしそうに頭をかいた。
心なしか顔が赤くなってる気がする。
「話したいことや聞きたいことは山ほどある
が、ひとまず家に帰るか」
「家?どこにあるの?」
私がこてんと首を傾げると、シエロさんはさらに顔を赤くして言った。
「ちょっと待ってろ。今準備する」
すると、シエロさんはポッケから紙を取り出した。
何やら魔法陣らしきものが書かれている。
「двигаться」
魔法陣らしきものが書かれている紙が光った。
私はその光に吸い込まれた。
あまりの眩さに、思わず目をつぶった。
風が体に強く打ち付ける感じがした。
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