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ガチャ。玄関のドアが開いた。
「準備できた?早く行かないといい場所取れないよ。」
私はそう言いながら玄関から現れた洋輝の浴衣姿を見てドキッとした。洋輝は照れくさそうにして、私とは目を逸らしている。
「…加奈が浴衣じゃないとってしつこく言うから…変だったら変だって言えよ。」
「か…かっこいいよ。」
洋輝はチラリと私を見て、また照れくさそうに目を逸らした。
「行くか。」
洋輝は照れ隠しのためか、私の横を通り過ぎて先に歩き出した。
「…あ。」
「ん?どうかしたのか?」
「…ううん。早く行こ!」
私は洋輝に駆け寄り、隣を歩いた。
…てか、私の浴衣には全く触れないの?洋輝が好きそうな柄にしたのになぁ。
「天気…晴れてよかったな。」
「うん。一昨日は雷雨だったもんね。この季節は急に雨降るから、今日みたいな快晴は久しぶりだよね。」
「綺麗だな。」
…え?私、急に褒められた!?
「夕焼けの赤って綺麗だな。」
…あ、夕焼けね。確かに綺麗だけどさ。
「今年の花火は今までで一番の発数らしいじゃん。」
「あ、そうみたいね。確か一万五千発だってチラシに書いてあったよ。」
「やっぱり音楽に合わせて上がる花火がいいよな。」
「うん。…洋輝は、何で私を誘ってくれたの?」
私は急に切り出した。洋輝は動揺したのか、しばらく無言だった。
「何でって…加奈が花火観たそうだったからだよ。お前、高校の近くのコンビニの窓に貼ってあったポスター眺めてたろ?」
「ちょっと、そんな姿見てたの?」
「たまたまだよ。部活が終わって帰る時にたまたま見かけただけだよ。なんか真剣に見てたからさ。」
…それはさ、花火は観たかったよ。でもさ、ただ花火が観たかったわけじゃなくて、洋輝と観たいなって思ってたんだよ。
「幼なじみのよしみで誘ってくれたってこと?」
「…他にあるのか?まぁ俺も観たかったしさ、丁度いいかなって思ったんだよ。」
「そっか。」
私の「そっか。」は自分でも分かるくらい声のトーンが変わった。洋輝はチラリと私を見て、またすぐ正面を向いた。
「…俺と一緒で良かったのか?」
洋輝が小さめの声で問い掛けてきた。
…洋輝と一緒が良かったから当たり前じゃん。
「気を遣わないから花火に集中できるしね。」
…まぁた私は素直じゃないな。
「ま、まぁな。…今日さ、サッカー部の連中も来てるはずだからさ。」
「…だから?」
「その…ほら、俺たちが付き合ってるみたいに誤解されたらさ…。」
…私は全然構わない。
「そうね。じゃあ余りくっつかない方がいいよね。」
…駄目だ、全然理想通りにいかない。でもさ、洋輝だって、今そんなこと言う必要ないじゃん。
多分、洋輝は私がご機嫌斜めなことに感づいたのだろう。頭を掻きながら言葉を探しているようだった。
会場に近付につれて、段々と人通りが多くなってきた。
「お!洋輝じゃん!」
早速、洋輝のサッカー部仲間に見つかったようだ。洋輝はチラチラと私を見たが、私は特に反応しなかった。
「あれ?一緒にいるのって、2組の河合さんじゃん。え?2人で来たのか?」
「あ、そうなんだけど、こいつとは幼なじみでさ!花火観に行く相手が居なそうだったから俺が一緒に…」
必死に言い訳している洋輝を見て、私は興醒めして人混みに紛れて姿を消した。
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