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「ったく、何なのよ洋輝のやつ。言い訳するにしても、私が寂しい女みたいに扱いやがって…。」
私はブツブツ言いながら人混みをかき分けながら歩いた。
辺りは夕焼けから一気に薄暗くなり始め、会場の河川敷に着く頃には夜と変わらない暗さになっていた。河川敷の遊歩道沿いに多くの露店が並び、家族連れや友達同士、そしてカップルたちが皆楽しそうな表情をして歩いていた。
浴衣を着てキラキラした表情のカップルを見て、私は立ち止まった。
…何やってんだろ、私。こんなはずじゃなかったのになぁ。
まずは浴衣を褒められて上機嫌になって、そのまま手なんか繋いじゃって…河川敷に2人で座って大きな花火に2人で目を奪われて…そんなに高い理想のつもりじゃなかったけど、現実はこんなものよね。
「ねぇ、君。」
背後から声がして振り向くと、1人の浴衣姿の男性が立っていた。
「…私ですか?」
「うん、君に話し掛けた。」
スラリとした長身の男性はニコッと笑った。
「な、ナンパですか?」
「え?ハハハハハ。」
笑い出す男性に私は気分を害した。
「あ、ごめんごめん。随分率直なこと言うんだなって思ってさ。はい、ナンパです。」
サラリと言った男性に私は思わずクスッと笑った。
「あ、でもそこらへんのナンパ男とは一緒にして欲しくないな。君の後ろ姿が何か訳ありに見えてさ。何か影を背負っているっていうか、人混みの中で立ち止まってたし。」
「訳あり…まぁ、そうですかね。」
「なら、訳あり同士一緒に花火観ないかい?」
男性はまたニコッと笑った。
…どうしよう。…1人で観るよりはいいか。
「…いいですよ。」
「ほんと?良かった。僕は佐伯悠馬、高校3年生。」
「私は河合加奈、同じ高校3年生です。」
「え?同い年?すっごい偶然。あ、僕は高校はこの辺じゃないんだけどさ。」
「高校は違うんですね、道理で見たことないなって。…あ、どっか座ります?」
私は元々観覧する予定だった河川敷の斜面に佐伯くんを案内して芝生の斜面に腰を下ろした。
「良い場所だね、ここ。僕、この花火大会初めてなんだ。」
「今年は今までで一番多い一万五千発なんで迫力あると思いますよ。」
「へぇ、それは凄いな。」
「佐伯さん、さっき訳あり同士って言ってましたけど、何かあったんですか?」
「いやぁ、すっごい恥ずかしい話なんだけど、彼女にたった今フラれちゃって。」
笑いながら答える佐伯くんを私はじっと見てしまった。
「ハハハ、そんなに珍しいものを見るかのような視線はイタイなぁ。」
「あ、すみません。ちょっと衝撃的で。」
…まぁ、私も人のこと言えた立場じゃないけどね。
「でも、フラれる傾向というか最近喧嘩ばっかりだったから…なるべくしてなったのかなぁって。まぁ、僕的には仲良くなりたくてこの花火大会に誘ったんだけどさ。道に迷うわ、暑いわ、虫に刺されるわで彼女の機嫌も良くなくて、最後は僕が有料観覧席のチケットを忘れたことが決め手!」
…そのミスは確かに致命的かも。
私は苦笑いすることが精一杯だった。
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