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「河合さんは?」
佐伯くんからの問い掛けに私は正面の川を見つめながら、洋輝の家に迎えに行ったあたりから記憶を再生した。
「…私は、別に彼氏じゃないんです。幼なじみっていう位置付けで。でも、私は…私は単なる幼なじみのまま過ごしたくなくて、あいつの好みの浴衣着て、この場所でかき氷食べながら花火観たかった。」
私は気が付くと頬に涙が伝っていた。佐伯くんはハンカチをそっと差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます…。」
私はそのハンカチで涙を拭った。
「その男、随分羨ましいな。」
「…そう…ですかね。」
「そうでしょ、こんな可愛い子から恋心抱かれてるのに、その気持ちに気が付かないなんて。…あれ、でもどうして1人になったの?」
「…うーん、何か私が想いが強すぎて、理想通りに事が運ばないことがツラくて…その、勝手に消えてきちゃったんです。」
「あれま。じゃあその男は今も君を必死に捜してるんじゃないか?」
「どうですかね。多分、サッカー部の仲間とどっかで焼きそばでも食べながら楽しくやってますよ。」
私は佐伯くんの視線を感じて振り向いた。佐伯くんは微笑みながら私をじっと見つめていた。
「な、何ですか?」
私は顔を赤くして、また正面を向いた。
「いや、ほんとは私の事を捜してくれたら嬉しいなぁって顔してたからさ。その男のこもはもういいのかい?」
「…あの、ナンパしたんですよね?」
「ハハハ、だから普通のナンパじゃないって言ったじゃん。僕は普段ナンパなんかできるタイプじゃないし。ただ、1人だと結構ツラく感じて…。」
私がチラリと言葉を詰まらせた佐伯くんを見ると、目を潤わせていた。
「…あの。」
私は佐伯くんに借りたハンカチを渡した。
「ふ、ごめん。こういうとこが僕は駄目なんだよな。渡したハンカチをまた返してもらう状況作っちゃうなんて。」
佐伯くんはそう言いながら涙を拭った。
「そんなことないですよ。その彼女さんも勿体ないことしてるなぁって、私は思いますよ。」
「…そう言ってもらえると、心が保てそうだな。…ありがとう。あ、蚊!!」
佐伯くんは自分の足に止まった蚊を叩こうとしたが、見事に逃げられた。すると、佐伯くんは鞄をゴソゴソと漁り、虫除けスプレーを取り出し、自分の手足に吹き掛けた。
「あ、君もしとく?河川敷だから虫いるね。これ、無香料だから!」
笑顔でスプレー缶を見せてくる佐伯くんの勢いに押され、私は頷いた。けど、足から吹き掛けてくれてる途中でスプレーは出なくなってしまった。
「あれ?終わっちゃった?…はぁ、やっぱり僕は駄目だな。」
急激に落ち込む佐伯くんを見て、私は話を逸らそうと露店を指差した。
「あ、あの、かき氷食べません?」
「え、あ、いいね!僕買ってくるよ。ここに居て!」
佐伯くんは私の返事を待たずに斜面を人混みを避けながら駆け下りていった。
「…良い人なんだろうなぁ。ちょっと抜けてそうだけど。」
私は人混みの中で頭一つ飛び出ている佐伯くんの後ろ姿を見ていた。
「加奈ぁー!!」
突然遠くから聞き覚えのある声が聞こえ、私はドキッとして固まった。
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