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始まり
「貴様、何者だ?」
薄らと月明かりが照らす薄暗い森の中。背筋をぞくりとさせるような声。
大きい声では無いのによく耳に響いた。
ハッとして声のする方を振り返る。
「私は……」
真っ白な頭をフル回転して考える。自分は一体何者なのか。無意識のうちに視線を右上に向けながらひたすら思考をめぐらせる。
数十秒後、地面に背中を打ち付けていた。
「んぐっ」
一瞬何が起きたのか理解できなかったが、全身に伝わる痛みで理解する。起き上がる気力もなく、抵抗せずにそのまま力を抜いた。
ひんやりとした地面が心地いい。
「お前は名前すら名乗れないのか?」
「……クルスです」
今思い出した自分の名前だ。うん、いい感じの名前ではないだろうか。首を捕まれているため少し掠れた声になってしまったが、聞き取れただろうか。
「ふん、それで?一体何の用だ」
「よう?」
よう、用?
「なんの事でしょう?」
「……では、ここで何をしていた?」
「何もしておりません」
「お前は……クソ!、さっさと起きろ!」
押さえつけられていた手が外れ、息が楽になる。
首元を擦りながら静かに起き上がり、少し汚れてしまった白い裾を払う。
「師尊!師尊!どこですか?!」
「ビズ、師尊はここにいますよ」
暗い森の中を泣きながら走るビズが少し可哀想に見え、パタパタと近づいてきたビズの頭をそっと撫でる。
落ち着きを取り戻したビズは、クルスの隣にいる人物に気が付き、警戒態勢をとる。
謎の人物は夜の闇に紛れており、黒いマントの隙間から白い肌がかすかに見え隠れする。
「師尊、こちらはどなたですか?」
「…」
それはこちらが聞きたいぐらいだ。そもそも自分は一体どうしてここにいるのか?それにこの少年は自分の弟子のビズだとは理解しているが、この記憶は一体何なのか。疑問だらけだ。
「分からない」
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